小説 モノスペース

□モノスペース 本編
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遭難 四十二日目


 雨でも降りそうな空は海との境界線を失っている。
近いうちに嵐がやって来るかもしれない。
ラナンキュラスはそんな事を想いながら、崖から海を見ていた。
風がラナンキュラスの髪で遊ぶ。
 気配を感じてラナンキュラスは振り返ると、ジュゴが崖へと向かって来る姿が目に留まった。

「どうしていつまでもここに居るの?」

 ドキッとした。
聞き覚えのあるセリフだからだ。
そう、あの黒い男が言っていた。
あの冷たい感触が蘇った。
ぶるっと体を震わせる。

「君がここに居る訳は少年のためだけじゃない気がする。」
「そんな事ないわ。」
「ここに何の未練があるの?」
「未練か…。」

 ちょっと違う気がする、とラナンキュラスは心の中で呟いた。
風がラナンキュラスとジュゴの距離を放そうとする。

「何故ここへ戻って来たの?」
「戻って来た…?」

 ジュゴの言葉に少し疑問を覚えた。
そんな事知るわけがない。
灯台へやって来たのは未来を見たからだ。
そして、今こうやって灯台守を続けてるのは、自分が灯台守だからだ。
ここは自分の居るべき場所に間違いない。
未来が見えない世界は、ラナンキュラスにとっては新鮮だった。
こんな亡霊が憑かなければ自分は幸せに生きていけるんじゃないかとも思った。



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