頂き物

□螺旋階段
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螺旋階段




目とは高度な器官であるが、視覚とは曖昧なものであるのかもしれぬ。目覚めたばかりの重たい瞼を擦る。夜明けの訪れと共に顔を出し始めた太陽が、辺りを白く靄がかかったような景色に変えてしまっていた。その中でも取り分け、俺の目の前できちんと膝を折って座っている乃木は、太陽の影響を受けているようだった。或は、それは俺の曖昧な視覚のせいかもしれぬ。どちらであるか、判断をしかねた。
乃木には、白く靄がかかっていた。その輪郭には空間との明確な境界線がなく、乃木はまるで景色の一部であるかのようにも見えた。乃木が微かに動く度に、その身体は空気へと溶けだしていくようだ。俺の視覚が捉える乃木の姿はあまりに儚い。


「児玉、君の気持ちは嬉しいのだけれど、」


乃木の声は空気を振動させて俺への鼓膜へと届いたはずであるが、その声はあたかも直接脳へと届けられたかのように頭の中で響き続けた。乃木は、この空間で、異質であった。


「守りたい、なんて口にしないでくれ」


異質であるのは自分なのかもしれぬ。俺は、乃木に触れてみたい、と思った。ぼんやり、とぼやけたままの乃木は、今にも景色と同化してしまいそうで恐ろしささえ感じる。


「ごめん、それでも、守りたいんだ」


俺の言葉を聞いた乃木は、いつもと同じ、泣き出しそうな顔で微笑んだ。その瞳で揺らめき、零れたものだけが、曖昧に見える乃木の中で明確な輪郭を有していた。
俺の手は、ついぞ乃木に触れることはなかった。視覚や聴覚よりも確実に伝わってしまう触覚が恐ろしかったのかもしれない。視覚は、あまりに恣意的でありすぎた。


「ありがとう、ごめんね、児玉」


そう残して、乃木は空間へ、溶けてしまった。






(柔らかく拒むその感覚を、)













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鈴木様宅の一万Hit記念フリリクでリクエストさせて頂いた、コダノギ小説です。
もう…もう…可愛すぎです二人とも!!
切ないパラレルですよね…ときめきすぎて、もう、あの、叫んで良いですか?←

乃木さんをなんとか側に留めて置き、守り続けたいが為に、やたらと焦ってる感じの児玉さんが可愛いです!

でも、運命を受け入れざるを得ないと理解していて、やんわりとしかしはっきりと児玉を拒絶してしまう乃木さんの健気さ具合も、かなり可愛すぎです最高です…!!

純愛ですよね、だからこそ擦れ違ってしまったんですよね。この「互いを想うが故の擦れ違い」って奴は、パラレルに関わらずコダノギの真骨頂だと思うんであるんでありますがどうですか隊長!!
(↑嬉しすぎてかなり日本語混乱中)

鈴木様、素敵な胸キュン作品を、本当に有難うございました!!





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