頂き物

□モノクロデカダンス。
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モノクロデカダンス。



「代償を捧げることによって罪が贖えるみたいですよ」
何について、とは言わなかった。解りきっていることだ。
堅牢な石の壁の密室で、そう呟いた木戸を、見た。
灰色の世界だった。
小窓からの光と、申し訳程度に誂えられているランプではとうてい日和の彩りは 購えず、黒か白か、或いは影か、ともかく視界を象るものに、精彩はなかった。
それに加えて石で建築された部屋はひんやりと、冷たい。だから、椅子に腰掛け 窓を向く木戸の顔は、大久保からはビスクドールのように人間味を失って見えて いた。
「断罪されるために、此処に来たわけではないでしょうに」
白く浮き上がった顔にそう言えば、木戸はこちらに視線を移す。よって木戸の顔 は灰色に変化する。灰色の木戸は、くつりと笑ってみせた。
「馬鹿げた事を。私を断罪できる者などいるはずがないでしょう」
傾げた顔に、前髪が流れる。木戸の顔に、黒い影が刻まれる。
歯だけが白く光り、その極端差に片足を少しだけ、引いた。
「不遜でいらっしゃる」
「貴方ほどでは」
「このような場所に訪れたのだから、心情常ならぬと思いまして」
「余計な世話」
パリ発祥の地であるシテ島に募る司法の数々、その一つ、コンシェルジュリー。
パリの最高裁判所である此処は、フランス革命の際には牢獄であった。 入れば決して生きて戻れず、かの栄華を極め道楽の限りを費やした王妃も、遂に はこの場所にいれられた。
「ああ、案外、恐ろしく思っているのは貴方では?」
実に愉しげな声色に脳は狼狽える。
木戸の顔は黒かった。つまるところ、恐ろしかった。
ふと思う。木戸からは、自分の顔は何色に見えるのだろう。
「…馬鹿な、ことを」
先程木戸が口走った言葉を、口にする。
恐ろしい?私が何を恐ろしく思う必要がある?文明か世界か、それとも人間か? 確かに、巡った世界は畏怖するものがある。脅威はそこら中に存在している。し かし、それが恐ろしい?答えるならば、否だ。強い人間がいるならば平伏せさせ るだけ。諸外国を恐れる必要などどこにある。
「大久保、さん」
木戸が呼んだ。見れば、手を伸ばして近くに来いと訴えている。手は、灰色だっ た。
仕方なく歩み寄れば、その手が、両の腕ごと腰に回った。そのまま顔を埋める木 戸の黒の髪を撫でる。気紛れな木戸の、よくあるただの戯れだ。
「つかまえた」
回った腕に力がこもる。
そうして灰色の顔は私を見上げる。黒い瞳はより一層不気味に思え、その動揺を ごまかすために木戸の前髪をかきあげる。一瞬だけ、木戸の瞳から逃げられた。
「お優しいですね」
「どういう真意ですか」
「恐ろしい大久保さんを、つかまえました。先につかまえておけば、つかまえられることはないでしょうから。さあ、こん な辛気くさいところは出ましょう」
そうだ。居たのは、牢獄の一室だった。罪人の、ただ鬱蒼と隔離される、孤独な 、断罪を待つ。
「出た道をまっすぐ行って、ルーブル宮をもっと行くと、テュイルリー広場があります。そこまで歩きましょう」
「・・・随分と詳しい」
「毎晩、市とその辺りを散歩してますから」
断罪を求められた王と王妃はここからテュイルリーまで運ばれ、処刑された。
木戸は腕を離し、立ち上がった。彼は、やはり灰色だった。
「木戸さん」
「はい」
「私の顔、何色ですか」
「……気でもふれました?」
「…木戸さん、」
「肌色ですよ、普通に」
木戸はそう言い、牢獄を出た。






アサ様から相互リンク記念に頂いた作品です^^
もう…もう、素敵すぎ!素敵すぎる!!

「パリにての大木戸」なんて言う、かなりな無茶ブリをしてしまったにも関わらず、とてつもなく萌えな病んでる夫婦を書いて貰えるなんて本当に嬉しすぎでした。

アサ様すごいです…尊敬してます!
本当に色々と、有り難うございました…!

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