お題

□one-sided game
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知っていたんだよ。
あの男が口では滑稽と言いながらもその実、あのつめたい部屋でひとり死んでくみじめさに声にならない慟哭を上げてたって。

知っていたんだよ。
あの子が必死になって私の居る藩邸に駆け付けてきて、手が血だらけになるまで私の名を呼び扉を叩き続けていたんだって。

知っていたんだよ。
あの子たちがどんなに誠実さを持って話をしようとしたって、どうせもう誰も耳を貸しやしない筈なんだって。

知っていたんだよ。
あの子たちの死そのものでしか、その礎そのものでしか、私の愛する長州は暴走を止められやしないんだって。

知っていたんだよ。
あの子が、もう既に病魔に侵されて余命いくばくも無いのに、それをひた隠して軍を率いてたんだって。

みぃんな、知っていたんだよ。
でも私は知らないふりをした。
私の手は未だ真っ白かも知れないけれど、私はほんとうに酷い人間なのです。

くつくつと、木戸が肩を揺らして笑い出した。うつくしく穏やかな表情とは裏腹に、彼の吐く言葉はことごとく汚らしい。
懺悔とも取れぬ、一方的な罪の告白。
不快だと口で言った所で止まった試しも無いので、私はただ彼を視界から外す。
するとそれが気に食わなかったか、彼は新しい策略を用いて来た。

「ねえ大久保利通内務卿。貴方だって…」

江藤新平。西郷隆盛。
私が知っているだけでも、もうふたり。
他には何人居るのかな、貴方にころされる・ころされた、可哀相な犠牲者たち。

「そしてわたしもそこへ並ぶんだ」

詰まらないエゴと下らない危惧でひたすらに繋がれて、ろくな療養すら出来ずに病み衰えて、この無機質な場所へ骨を埋める。

「ほら、私達はこんなにもそっくりだ」

流石に耐え兼ねて彼を睨み付けると、彼は火が点いたように、一層高らかに声を上げて笑い出した。

いつまでもいつまでも。
とても楽しそうに、悲しそうに。
まるで何かを持て余すように…ひとり。







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