おはなし。
□飴とキミ
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「ねぇ白石。なんか口、寂しい」
二人並んで白石の部屋で映画を見ていたところへ、ふと小さな不二の呟きが落とされる。それもテレビ画面に映し出される映画は今まさにクライマックス、出来るなら目を離さずに見ていたいはずのシーンで。
「へ?…あー、…ちょお我慢しといて」
「我慢出来ないから言ってるんだけど」
「ちょ、いい子やから。な?聞こえへん」
画面の中ではしっとりとした音楽にのせてヒロインの告白が続いている。それなのに全く構うことなく、むしろ興味がないとでも言いたげに訴える不二に、白石は少し困ったように眉を寄せてしーっと立てた指を自らの唇に当てて宥めるように頭を撫でる。勿論視線はすぐに画面に戻された。
「…ねぇってば、口が寂しいよ…」
恋人である相手の態度に少し拗ねたように続ける不二の小さな呟きが白石の耳に届くと、諦めたように息を吐く。敵わんな、と小さく呟きながら立ち上がった相手に少し意外そうに視線を送りながらも不二が大人しく待っていると、再び隣に座った白石の指先に摘まれた何かが不二の唇に押し当てられる。
「ん。飴ちゃんあげるから、しばらくコレで我慢しといてな」
白石に促されるままにそれを口に含むと甘さがじわりと口内に広がった。黙ったまま飴を口の中で数回転がして白石をじっと見遣る。
「……普通こういう解決、するかな」
「ん?」
「何でもない」
呆れたように小さく言ってから、全く気付く様子もない白石に軽く笑って、不二は身体を少し擦り寄せると、黙ったまま、それでも幸せそうに画面に映る二人のキスシーンを見つめていた。
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