記憶の欠片
□6話 刃のキオク
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「勝者、ラオマ選手!!」
ロゼルが動かない事を確認してから審判が叫んだ。
客席から歓声が沸く。
中にはロゼルの名前を叫びながら泣いている者も数多く見られた。
また、ラオマの事を絶賛する者も見受けられた。
「さて…と」
一通り客席に手を振り終わったラオマは、倒れているロゼルの元へ歩み寄る。
「アンタ、いつまで寝てるつもりだよ…。死んじゃいないだろう?」
倒れていたロゼルはその言葉を聞いて飛び起きた。
その顔からは動揺がはっきり見て取れた。
「何で!?さっきまで確かに目の前が真っ暗に……」
「そりゃ目を閉じてたら真っ暗だよな?」
ロゼルは意識が薄れて行く最中、無意識に目を閉じていたのだ。
無意識だったために本人は目前の闇を『死』と勘違いしていたらしい。
「でも…あの時、確かに剣で刺されたはず…」
「ああ、それなら…」
ラオマが聖剣で軽く斬りつける。
だが、ロゼルの体には痛みはあったが傷は付いていなかった。
「この剣は『癒しの聖剣』なんだ。傷の回復という特殊能力を持ってる。」
ラオマは一度聖剣を眺め、言葉を続けた。
「まあ、その回復能力が強すぎて斬った相手の傷まで治しちまう『出来損ない』なんだが…」
確かにロゼルの体には刺された跡はおろか、ナイフのかすり傷すら残っていなかった。
「剣の特殊能力…か。でも負けは認めるわ。あたしの銀を左腕で砕いたのは変わらないもの…」
「あぁ、それは魔剣の特殊能力のおかげだよ。この剣は肉体強化の能力があるんだ。体に負担がかかる欠点があるけどな」
ラオマは癖のある奴等だと溜め息をつく。
「成程ね……。だったら尚更負けを認めるしか無さそう。……だって、戦闘を甘く見て準備を怠った……。その気の緩みが今回の敗因なんだから…。」
ロゼルが自分のラフな服装を指差して言った。
「こっちはそれで苦戦してんだぜ?準備万端の時に戦うのはゴメンだね」
ラオマはロゼルの言葉に苦笑いしている。