記憶の欠片

□1話 目覚めし男
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目が覚めるとそこは知らない部屋。

そこで男はベットに寝かされていた。

右側には木製の壁があり、窓から光が優しく包む。

窓の外には見覚えの無い景色が広がっている。

左側には隣の部屋に続く扉が見え、半分ほど開いた扉からは隣の部屋が見える。

(ここは…どこだ?)

男が周りの様子を調べるため体を起こそうとして力を入れると

「ぐあぁッ!!」

全身に体がバラバラになりそうなほどの激痛が走り、彼は悲鳴をあげた。

それを聞いて一人の少女が駆けつけた。

栗色の髪を肩の少し下まで伸ばしている。

「気が付いたんですね!」

男は痛みで返事を返す事も出来ずに苦しそうにしている。

「大丈夫ですか!?」

その様子を見た少女はおろおろと慌てるばかり。

こういう事に慣れていないらしい。

痛みは一分くらいでおさまり、男はようやく口を開く事が出来た。

「大丈夫ですか?」

「ああ…もう大丈夫だ」

「よかったぁ〜」

緊張していた少女の肩から力が抜けた。

「えっと…君は誰?」

男がさっきから聞きたかった事を質問する。

「私、ラミっていいます」

ラミと名乗った少女は笑顔で答える。

「びっくりしましたよ、朝家の前にあなたが倒れてたんですから」

「俺が?家の前に?」

男は不思議そうな顔をして聞き返す。

男には全く身に覚えが無い話だった。

「ここは何処なんだ?」

「私の家ですよ?」

「いや、そうじゃなくて…何ていう土地だ?」

男が窓の外を指差しながら言う。

「イレート王国です」

聞いた事の無い国だった。

そもそも自分の住んでいた国の名前すら覚えていなかった。

「ところで、あなたの名前は?」

今度はラミが質問した。

「名前?……えーと…?」

「もしかして覚えてないとか?」

ラミは言った後でまさかと笑ったが

「……覚えてない」

という答えを聞いて笑いがおさまる。

「記憶喪失……ですか?」

「多分そうなんだろうな」

男は実感が沸かないといった口調で答える。

「自分が何者なのか、どこから来たのか、どこへ行きたかったのか、何をしていたか、全く覚えて無い」

「そんな……」

ラミは信じられないと口を押さえる。

「…で、名前が無いと不便だからいい名前ないか?」

男が冗談混じりで聞くと

「喪失さん…とか?」

ろくでもない答えだった。
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