紡ぎ愛

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地元では、じきに納涼祭が行われるという中途半端な時期に、なんとも迷惑な転入生がやってきた。
騒音と言っても過言ではないくらいに煩く、人気者ばかりに声を掛けるその姿はさながら使い古した黒いモップ。
生徒会副会長の二条先輩もその被害にあったらしく、あまり校内を出歩かなくなった。
数日して、生徒会長の皇先輩に腰を抱かれて歩いてる二条先輩を見た時は、「やっとくっついたか」くらいで、大して驚きはしなかったけど……さすがにこれはビックリだな。

だって遭遇するの久々。

「やだぁっ!!やめて!はなしてぇぇっ」

……嫌がってるな。

だったら、やるこた一つだ。
目の前のドアを開き、床に小柄な少年を押し付けていかがわしい行為をしようとしていた3年生三人へ声を掛ける。

「ええと…3−Eの香取先輩、白石先輩、水沢先輩…ですね。現行犯てことで同行願います。抵抗するとこちらも荒っぽい手を使わないとならないんで大人しくすることをお勧めします」

だが勿論、このテの人にそんな忠告が聞き入れられるはずがない。
少年を放って殴り掛かってきたのを、軽くかわして鳩尾に一発ずつ。仲良く寝てもらう。
後は報告するだけだ。
「あ、もしもし副委員長?東棟二階第三視聴覚室に暴行犯三名、被害者一名です。被害者保護しときますねー」

勝手にふらふら歩くなと怒られたが気にしない。
何故なら我が委員会で最もふらふらしてるのが委員長だからだ。

携帯をしまって、少年……あれ。この子こんなちっさいのに俺より年上なんだ。
名前は確か、

「樋野つばさ先輩、ですよね。大丈夫ですか?」

制服の上下、前こそはだけてるけど、セーフなはず。
だけど反応が返ってこなくて首を傾げる。

「樋野先輩?」

そこで気付いた先輩の小さな体の震え。
手を伸ばせば仔猫のように威嚇してくるが、気にせずその体を抱きしめた。
腕の中で暴れる体が傷付かないように力を込め、耳元に囁く。

「大丈夫。もう大丈夫。怖いことする人はもういないよ」

子供に言うような言い方だったかもしれないが、先輩には効果抜群で、すぐに落ち着きを取り戻した。

……まぁ、今度は涙が止まらなくて俺の胸にしがみつくことになったんだけど。

……うん、可愛いから良し!

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