紡ぎ愛
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しばらくして落ち着いたらしい先輩の頬に手を当てれば、小さく肩が跳ねてそろそろと顔が上がった。
涙目の上目遣い。
ムスコに大ダメージです、はい。
だって先輩可愛いし。
え?俺?
ゲイじゃないよ。
でもストレートでもない、つまりバイ?だってどっちとも恋愛できるとか、なんかお得でしょ?
「助けてくれて、ありがとう。……ごめんね、あの…制服、」
ああ、確かに先輩の涙で濡れたけどそんな。
「気にしないでください。(俺の場合、制服や教科書なんかの物以外はタダだし)可愛い人の涙ならいくらでも。でも笑顔ならもっと大歓迎ですけど」
そう言っておどけて下手なウインクをすれば、先輩はクスクスと笑ってくれた。
なにその笑顔可愛い!
そこへドアが開いた。
「お疲れ様です、梟さん」
「あ、お疲れ様です。副委員長」
数人の風紀委員を引き連れて現れたのは副委員長の汐見司だった。
あ、梟ってのは俺のコードネームみたいなもんね。ほら、一般生徒に身バレするとやりにくいから。
いつものようににこやかに現れた彼は、チラリとつばさを見て笑った。
「彼は大丈夫なようですね。樋野君、後日調書を取るのでその時は宜しくお願いします」
「あ……」
「大丈夫ですよ、先輩。副委員長は優しいですから。委員長だって、先輩ならいじめたりしませんよ」
他の人間ならいじめてるような言い方に、汐見は苦笑した。
「では梟さん、樋野君を部屋まで送ってください」
「了解でーす」
副委員長にひらりと手を振って、樋野先輩を抱き上げて部屋を出る。
「え……えぇ!?あの、」
「しー。黙って俺の肩に顔つけててください。そしたら顔バレませんから」
「あ……ありがとう」
「いえいえー」
大人しく肩に顔を埋めた先輩の後頭部にキスをして足を進める先は寮、銀山館。
寮に入ったところで、警備室から馴染みの顔が覗いた。
「おー。どうしたよ」
「こんにちはー、蓑島(みのしま)さん。お仕事ですよ。今日は蓑島さんが当番ですか?」
「そういうことだ。帰り寄れや。うちのボスから預かってるモンがあっから」
「ラジャー」
軽く会話をしてエレベーターに乗り込むと、樋野先輩がそうっと顔を上げた。
「…きみ、名前なんていうの?」
「うーん…ホントは言えない決まりなんですけど……」
ま、先輩は他言しないだろうし、いっか。
「1−A、風紀隠密の山田壱路(やまだ いちろ)です。ヨロシク」
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