紡ぎ愛

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樋野つばさ先輩救出から数日。
副担任の高遠裕之(たかとお ひろゆき)先生の数学の授業が終わったところで、高遠先生に呼ばれた。

「はい、どーしました?」

高遠先生は30歳。
ワイルド系イケメンで、学院のチワワたちに大人気だが、本人は全く相手にしていない。
何故なら高遠先生はタチの男を屈服させるのが好きなドSなバリタチだからだ。

「おまえ、2−Aの樋野知ってるな?」
「樋野先輩?知ってますよ」

あれ以来会ってないけど。

「あいつ、警護対象になって五日前から警備がついてんだが、人の気配が絶えず側にあるもんで参っちまったらしくてな。食欲不振に不眠気味ってわけだ。おまえちょっと言って話(ケア)して来い」
「はぁ、まあ良いですけど。これって本来警備委員長とかうちの委員長の仕事じゃないんですかー?」
「そう言うな。これやるから」

差し出されたのは、一本の鍵。

「裏庭の温室の鍵だ。好きに使え」
「すぐ行ってきます!いざ樋野先輩の元へ!」

現金だって?そんなことわかってるさ。でもこれが俺なんだ。



2年の階に着く前に、階段を上がりながらネクタイを2年のものに替える。
風紀隠密舐めんなよ。全学年のネクタイ持ってんだぜ☆

「んーと」

2−Aの入り口で中を見渡すと、何人かに手を振られる。
俺のファンってやつ。
ちょっと笑って手を振り返しとく。

あ、いた。

「樋野くんー!」
「…え?」

振り返ったその顔色の悪さに驚いて駆け寄るのと、華奢な体がぐらりと大きく傾いたのはほぼ同時だった。

上手く先輩を抱き止めて確認すれば、意識がないようだった。
頭にコブもなく、熱もない。
顔色の悪さと目の下の隈から、おそらく睡眠不足。
それから、栄養失調気味かな。
出会った時よりも細く軽くなってしまった体に眉を顰めつつ、近くにいた人に医務室に連れていく旨を伝えて先輩を抱き上げて教室を出た。


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