紡ぎ愛

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向かう先は医務室。
一般生徒は場所どころかその存在さえ知らない第三医務室には、腕は恐ろしく良いがその分クセのある医師が常駐している。

「ヒロさん、急患ですよー」
「あン?…なんだ壱路か。奥のベッド使え」

手前のベッドで二の腕から流血してる生徒の傷口を縫っていた白衣の人物が振り返ってそう告げると、また処置に戻った。
真っ黒な髪を後ろへ撫で付けた迫力系美形。
第三医務室の主、城田比呂(しろた ひろ)。
元ヤンなだけあって、外傷の処置は特に巧い。

「その子どーしたの?喧嘩?」

樋野先輩をベッドに寝かせながら訊けば、肯定の返事が返ってきた。
上掛けを掛けてからヒロさんの方に戻ると、金髪をツンツンと立てた少年が涙目で拳を握って我慢していた。

もしかしてとは思うけど‥。

「ヒロさん。麻酔なし?」
「おう。ケンカでした怪我なんかに使う麻酔はねェ」
「相変わらずドSだね」

それをわかってて来るこの少年も大した根性だけど。

「涙目可愛いね」

いかにも不良な少年が痛みを我慢して涙目なのって良いよね!

「手ェ出すなよ。これはオレのだ」
「え?珍しいね、ヒロさんがそんなこと言うの」

小学生の時に会ってから付き合いの続いているヒロさんが、そんなこと言うのは初めてだった。

「へぇー。名前は?」
「青井新(あおい あらた)。1−Eだ」
「なんでアンタが答えんだよ!」
「青井くん、ね」
「見掛けたら頼むぜ」
「仕方ないなぁ」

ヒロさんには何だかんだお世話になってるしね。

「おいっ!」
「静かにね。樋野先輩起こしたら、ヒロさんの恋人でもお仕置きするよ」
「っ…」

大声を出される前にそう制すると、青井くんは息を飲んで黙り込んだ。

「うちの猫怖がらせんじゃねぇぞ」
「はいはい。ほらヒロさん、樋野先輩診てくださいよ」

ヒロさんを急かして樋野先輩を診てもらうと、やっぱり睡眠不足と軽い栄養失調だった。

「今日、明日は休ませて栄養あるもん食わせてやれ」
「わかった。ありがと」
「おまえのか?」
「そういうわけじゃないけど、……乗り掛かった舟ってやつ?」

まぁ可愛いし良いじゃない、と言えば呆れられた。

「おまえそんなだから昔から苦労してんだろ。少しは自重しろよな」

苦労なんてそんなにした覚えないよ。


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