紡ぎ愛

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樋野先輩が起きるまで側についていようと思ってたのに、空気を読まない委員長に呼び出されてしまったので、仕方なくヒロさんに樋野先輩が起きたら呼んでくれるように頼んで医務室を出た。
行き先は風紀室じゃない。
もう委員長によって命じられてるから。

『ちょっと校舎食堂で誑しこんでこい』

その後に携帯に送られてきた画像付きメール。
ある生徒の個人情報だった。
それを頭に叩き込んで、食堂の扉を開ける。
今は学年がわからないようにノーネクタイ。
代わりに、ピアスとネックレスやチェーンなんかをじゃらじゃらさせとく。
ネクタイがないのを怪しまれないようにね。
腰パンにして、髪も軽くアレンジしてるし、軽い男に見えるはず。
俺、こういう恰好するとエロいらしいんだよね。友人情報。
だから食堂中の視線が集まる。
でも、「本当の山田壱路」を知ってる奴らは、俺を見ない。
「本当の山田壱路」を知る奴らは、俺が風紀隠密だって知ってるから。

食堂の中を不自然に見えないようにぐるりと見渡すと、ターゲット発見。
硬質な印象の子だ。凛々しく整った顔立ちといい、高い身長といい、規模はともかく親衛隊とかいそうだな。てか、いるんだけど。

ともかく、まずは接触。

丁度良く食堂は込み合っていて、ターゲット…十文字左近(じゅうもんじ さこん)くんの向かい側の席は空いている。
ちょっと踵を引き摺ったような歩き方で近付いて、彼に話し掛ける。

「ね、ここ座ってもいーかな?」
「……どうぞ」

顔を上げて俺を見た瞬間、ちょっと驚いたみたいな顔をしてから許可をくれた左近くんは、そのまま自分の食事に戻った。

へぇ、焼き魚定食か。
箸の使い方綺麗だな。

「魚、旨い?」
「え…はい、まあ」
「じゃあ俺も魚にしよーっと」

スラッシュさせるカードは、俺は三種類持ってる。
一枚目は一般生徒用。
もう一枚は風紀委員用。
最後の一枚が、生徒会用。

実は生徒会補佐も兼任してるんだ。
これは補佐の依頼があった時のみで構わないっていう話だから、そんなに煩わしくないし。皇会長にはちょっと借りがあるし。

で、今回使うのは勿論一般生徒用。

「箸の使い方綺麗だねぇ」
「…ありがとうございます」

あ、俺のこと先輩だと思ってるんだ。俺のが年下なんだけど。

「髪、染めてないの?」
「先輩こそ、」

綺麗な髪です、と言う左近くんの頬は仄かに赤い。
これは脈ありだな。

そんなことないよ、と手を伸ばして左近くん横髪を指に絡めれば、自然と指が頬に触れる。
頬は燃えるように熱かった。


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