紡ぎ愛
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「お待たせいたしました」
「ありがとー」
「ごゆっくりお召し上がりください」
にこりと笑って一礼した執事っぽい爽やか系美形ウェイターが下がるのを見てから箸を取る。
「いただきまーす」
と手を合わせれば、左近くんはそれを静かな目で見つめていた。
意外?俺だっていくら演技中でも挨拶くらいしますとも。
半分程食べたところで、左近くんに話し掛ける。
「左近くんてさ、剣道部だったよね」
「なんで…僕の名を…?」
訝しげに寄せられた眉根にあははと笑う。
「剣道部のエースじゃん。知らない奴のが少ないんじゃないのー?」
これは本当のことだけど、俺はさっきの個人情報で知ったんだよね(笑)
椀物に箸を付けて、上品に煮られた里芋が口の中からなくなるのを見計らって彼に笑い掛ける。
「特に最近なんか、部活サボってるみたいだし。有名だよ」
真面目なキミがそんなことするんだから、ワケがあるんでしょ?
そう言えば、彼の眉間の皺は深くなった。
「…って皆に言われて嫌気がさした?」
「 ! 」
「その顔は図星かぁ〜」
喋りながらもさくさく食べ進めたからか、もうすぐ食べ終える左近くんに追い付きそうだ。
「俺は真面目なんかじゃないのにー…って?」
それとも、
「俺のことなんて何も知らないくせに…かなー?」
「…あなたは……」
「ん、ごちそーさまでした」
困惑する左近くんに構わず、両手を合わせて先に食事を終える。
立ち上がりながら、左近くんの耳元に密やかに囁いた。
「俺を知りたいなら、一緒においで」
左近くんの反応を見ずに、そのまま食堂を後にする。
後ろからは、足音が一つついてきている。
振り返るまでもない。左近くんだ。
「俺」に興味を持たせた。
次は、「誑しこむ」だけ。
委員長ー、樋野先輩が起きるまでに終わらせたいから、ちょっと強引にしても良いかな?
答えの返るはずのない問いを心の中でしながら、午後いっぱい空いている教室のドアを開けて中に入った。
続いて入ってきた左近くんに向き直り、にこりと笑ってみせる。
左近くんの背後で、静かにドアが閉まり……鍵が掛かった。
風紀隠密必技「遠隔操作」!
……まぁ、風紀室で待機してる情報担当が遠隔操作でロックしただけなんだけど。
焦る左近くんに殊更ゆっくりと歩み寄れば、彼の顔は恐怖に彩られていた。
……泣かしたくなるなぁ。
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