小説

□悪戯心が仇となる
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辺りは血の海と化し、人から屍へと堕ちた肉の塊は見るも無惨な姿になり、血溜まりに深く溺れて冷たくなっていた。この生気の失った目玉に、色の悪い肌、そして死後硬直で堅くなった身体。致死量の血で染まった滑稽なコープスの山。まるで薄暗い海底に住みつく醜い深海魚のようだと、そう思った。

「キンブリー、一つ質問なのですが貴方私のことどう思ってます?」

そんな中、ふとプライドが口を開いた。彼の瞳は私を捉えたまま、一向に視線を反らそうとはしない。何故、そんな事を聞くのでしょう。それもこんな悲惨な、生々しい殺人現場で。なにより異形の彼はどんな答えを望んでいるのでしょうか。

「……敢えて言うなら醜い、ですかね」

「………」
 
ちょっとした私の悪戯心から出た言葉。それに彼ならばお得意の皮肉たっぷりな言葉で言い返してくると思っていたものですから。いや、今となっては私の軽率な考えでしたが。

「キンブリー、」

「おや、怒っているのですか?」

「どうでしょうね」

そう言うと闇に呑まれたかのようにプライドは私の視界から姿を消した。影、そう思った時には既に遅く、気がつけば両手を拘束されている私。チロリ、と生温かい彼の舌で耳朶をそっと舐められ、聴覚を犯される。

「腹いせですか。貴方らしくもない」

「……黙っていてくれませんか」

ダイレクトに彼の声が鼓膜に響いた。今夜のプライドは変、だと私自身思う否その原因は他でもない自分なのですが。尚も続く擽ったく、けれど何処か歯痒いような感覚。小さな羞恥に浸りながら私は思う。どうやら、彼の機嫌を損ねてしまったらしい、と。

「……っ、プライドやめて下さい」

「やめて欲しいのなら私に謝りなさい。なんですか醜いって」
 
彼の見据えた瞳は鋭く、影によって掴まれた片手は強く絡まれたまま動けない。動かせない。魂の抜けた沢山の目玉が私を嘲笑っているかのように思えてならない。既に死んでいることは百も承知ですが、どうしても見られているようで気味が悪い。いや、彼等を爆死させたのは紛れもない私自身ですが。

「聞いてますか、キンブリー」

「冗談ですよ、冗談。貴方は酷く残酷で美しい、気高き生き物です」

例えるならば拷問か、若しくは強要ですかね。本当に、性が悪い。そうしてプライド、貴方は一言、こう呟きました。

「分かればいいんです、分かれば」

まるで勝ち誇ったかのような傲慢な言動は如何にも貴方らしいと思いましたよ。

 


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