小説

□無垢な君を喰らいたい
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「あー、脳が沸騰してるみてぇだ…」

己の躯を動かす動作や一つ一つの言葉を紡ぐ事さえも鈍重なものとなり、頭の中になにか異物が侵入しているかの如く鋭い痛みが走った。そして喉は猫の爪でカリカリと研がれているような、おかしな感覚に陥る。俺が風邪を引いたんだ、と認識するのに然程時間は掛らなかった。

大佐から毎日のように施される、最早拷問にも似た俺に対する理不尽な虐め。(ただの報告書やら文献やらの整理)度重なるアルやウィンリィからの言葉の暴力。(牛乳を飲め、機械鎧を大切に扱え、などの叱咤)飽きもせず毎回のようにベタベタと俺にひっつく目の前のエンヴィー。(構ってほしいだけの抱擁)オレが風邪をひく要因は十本の指では数えられない程にある。兎にも角にも周りの人間のせいという事は確かだった。

「おチビさんのおでこ、熱いね。もうタオルが温かくなっちゃった」
 
「……熱があるから、な」

「人間って不便ー」

「余計なお世話だ、」

弱々しく言い返す俺にエンヴィーはやれやれと両腕をあげ、そっと俺の額に手を伸ばした。エンヴィーの冷たい手の平と俺の熱とが中和され、程よい温度へと変わり気持ちがいい。

「ふふっ。こうやって熱で弱ってるおチビさんもたまには悪くない、かな」

「うっせー……」

「ハイハイ。ご飯、持ってくるよ」

そう言うとコイツは至極機嫌の良さそうに満面の笑みを浮かべ、サイドテーブルから先程より視界に映っていた土鍋の蓋を開け、言葉を続けた。

「口開けて?僕が食べさせてあげる」

「んな恥ずかしい真似出来るわけな、」

「はい、アーン♪」

病人の俺の意見を全く聞かずに目の前には白雪のように光る白米と銀色に輝くスプーンが口元に差し出される。はっとしてスプーンをまじまじと見つめる俺。そうして再度エンヴィーを見るとニコニコとした満面の笑みが。その有無を言わせないコイツの表情に根負けした俺は意を決して口を開けたのだった。

「……おチビさん、とりあえず一つだけ言わせてくれる?」
 
「な、なんだよ」

「顔が真っ赤だけど大丈夫?」

「…………熱があるからだ」

考えた挙句そんな言い訳しか思いつかなかった哀れな俺。ただでさえ熱で身体がダルく眩暈がするというのに、これ以上悪化したらどう責任取るつもりなんだコイツは。そして言わずともエンヴィーはニコニコとした顔からニヤニヤとした気色悪い表情へと一変させ、その後抱きつかれる羽目となったのはまた別の話だ。

 


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