小説

□同じ性質であるが故の反発なのさ
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ある晴れた日の出来事だった。

「っ、う……」

隣りに座る少年を横目に、ため息にも似た深い息を吐く。原因は本当に些細なこと。少し口論になったらこのザマだ。このチビは泣き出したら止まらなくなるのか、先程から同じ調子で目から水を垂れ流している。その横で僕は人間って本当に六十パーセント水で出来てるんだなあ、としみじみ思った。今は涙でぐちゃぐゃの顔も笑えば太陽のように眩しく可愛い。嗚咽がもれている少年の口が紡ぐ言葉は、拙く決してよく出来たものではないが、誰の言葉よりも人間らしく、優しい。そして濡れている手はいつもと変わらず、多分温かい。また僕と比べたら驚くほど小さいのに、ぎゅっと握られれば、なぜか包み込まれている気分になる。
 
………そうか。僕はおチビさんの包み込むような笑顔やら、態度やら、仕草が好きなんだ。隣りにいるのが普通になっておチビさんの好きなところ、忘れてた。なくしていた答えに辿り着いたような気がして、口元が緩む。同時に、おチビさんの笑顔が見たくなった。いつだって君が泣いてる時、僕は何も言わずただ隣で考え事だとか、めんどくさいとか思ってたんだ。早く泣き止めよチビ、って。

眉間に皺を寄せ、思考をめぐらせる。泣き止ます方法、泣き止ます方法……。その時いつかのドラマで男が女を泣き止ませていたシーンが駆け巡る。これぞホムンクルスクオリティ。よし、これでいこう。

青年はニヤリと口角を上げた。

「ねえ、おチビさん」

「な、んだよ。今更謝っても許さ、」

強引に少年の顔を掴んで、青年のいる方向を無理矢理向かせる。濁音まじりで痛いと聞こえたが、まあいい。

まだ目に涙が溜っていて、鼻をグスグスと言わせている少年に向かって青年は優しく微笑む。そうして一言、

「目からダイヤモンドが溢れてるよ」
 
少年はポカンとした。それを見て青年は、間違っていたかと眉を顰め、それからまた口を開く。

「今日の天気は雨なの?おチビさん」

「……え、どう見ても晴れてるだろ」

「はあ?太陽はココで泣いてるでしょ」

と少年を指指す青年。おチビさんは何度か目をパチクリとさせ、暫くしてから小さく噴いた。そしてクツクツと肩を震わせ笑い出す。仕舞い目には机を手で叩いて笑うほどだ。さっきまでのぼろ泣きが嘘のように。

「そんな言葉、どこで覚えたんだ?」

「ホムンクルスなめないでよ」

青年はポーカーフェイスのまま、少年の涙を拭ってやる。涙まみれの頬から目尻までグイと親指で拭けば、もう新しく零れる涙はなかった。

「結構簡単だね」

エンヴィーは得意気に一人笑った。そして思う。僕にできないことはない、と。

 


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