小説

□指だけじゃ足りない
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(卑猥表現注意)


ソコは濡れてグチャグチャになっていた。おかしい。こんな筈がない。一体、俺の身体はどうなってしまったのだろう。そう思っても止まることを知らずに溢れ出してはソコ周辺をしとどに濡らし、溜った雫が重力に従ってポタポタと落ちる。最初の方は滑っていたのに、今はもう水のようになっていてピチャピチャといつまでも流れ続けていた。これ以上弄れば余計に酷くなると分かってはいる。しかし、その不快感に我慢が出来なくなって近くにあるティッシュを掴んではソコを拭った。ゴミ箱はおろか床にも大量に丸められたティッシュが落ちている。なんて有り様だ。そう思っていても、また一つ床に転がす。さっきしたばかりだというのにまたソコが疼いてくる。ああ、もうダメだ。もっと強い刺激が欲しい。
 
俺は観念して既に爛れているであろう、ソコへと指を突っ込んだ。粘膜が傷付こうが構わない。早くこの疼きを鎮めたい。入るところまで指を埋めて掻き毟るように何度も行き来させると、グチュグチュと湿った音が辺りに響いた。ソコの形が変形するくらい弄って、満足するとまた出そうになってティッシュを宛がう。一体いつまで続くのだろう。苦しさから解放されたくてやっているのに、やればやるだけ余計に疼く。これじゃあ無間地獄だ。宛がったティッシュを見れば、血が混じっていた。思わず辺りを見渡してみたが其処に俺の求める人はいない。早く帰って来い。そうじゃないと俺は此処で一人悶え苦しみ続けなければならない。涙が勝手に溢れてくる。

「俺、このまま死ぬかもしれない……」

身体を丸めて必死に疼きと戦い続けた。それから数分のことだった。

「鋼の、大丈夫か?」

不意に声が聞こえて顔を上げると大佐が其処にいた。一気に気が緩み、その身体を抱き締めると、

「助けてくれよ。このままじゃ、俺、死にそう……」

と、しゃくりあげながら言った。今の自分にはプライドも余裕もなく、ただ今すぐこの疼きを止めて欲しかった。
 
「うう……。たい、さ、」

「安心したまえ、鋼の。花粉症如きで人は死なん」

そう言ってニッコリと笑う大佐。俺はこの時ようやく自分の病名を知った。心が折れそうになっていただけに、ホッとするより先に放心する。なんだ、あれだけ騒いだのにただのアレルギーかよ、と。そんな俺の様子に大佐は宥めるように背中を擦りながら、いい薬を買ってきたから飲もう、と優しく言ってくれた。普段の俺なら抗議の一つや二つ発するのだろうが、今は壊れた涙腺から涙がボタボタと流れてそれどころではない。

大佐の言葉でまだ痒みは治まっていないものの、暫くしていつもの調子が徐々に戻ってきた。

「さっきさ、鼻血も出たんだぜ……」

「はあ、何度も弄るなと言っただろう」

「でも、スゲー痒いんだぜマジで!あのままだったら死んでた!」

「痒みで人は死なんさ、鋼の」

「このティッシュの量見てみろよ!どんだけ体内から水分が失われたことか!」

「そう言うと思って飲み物も買ってきたよ。ほら、もう泣くな」

「ばっ…!違ぇ!勘違いすんな!好きで泣いてるんじゃねぇよ!勝手に涙が出てくるんだから仕方ねぇだろ!」
 
「あぁ、目にもきたのか。すまない、目薬はまたあとでな」

「これもなんとかしてくれよー!」

「コラ!分かったから唾を飛ばすな!とりあえず、鼻炎の薬とドリンクを飲んでマスクをしなさい。それで鼻炎が治まったら目薬もすぐに買ってこよう」

俺の我儘にも甲斐甲斐しい世話をしてくれる大佐は最高の上司だと思う。相変わらずの上から目線は頂けないが、当分は大佐のお世話になるのも悪くはない。いや、大佐に借りを作るのは些か俺のプライドに反するが。なにより後が面倒だ。そんなことを頭の隅っこの方で思いながら、俺は言われた通り大佐が買ってきてくれた薬を一粒手に取った。そうして机に置かれたコップを唇に宛て、水をゴクリ。小さく喉を鳴らした。

花粉症の脅威はまだまだ続く。

 


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