小説

□烏と狼の食事は紙一重らしいね
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(微裏注意)


暗い、暗い真夜中の路地に若い青年の影がひっそりと、そしてゆっくりと確実にある場所へと近づいていた。不意に生暖かい風がびゅうっと吹き荒れ、その青年の黒く長い髪を揺らしながら白魚のような白い頬を舐める。風は何事もなかったかのように過ぎ去ったが、青年は一度風の消えた暗闇を見つめた。けれども青年はすぐに向きを戻し、歩を早める。ひたひたと鳴る足音が異様に響いて聞こえるのは気のせいだろうか。昼間の活気溢れる明るい街と比べ、今のこの暗い夜道は酷く不気味に感じられる。

チカチカと街灯が点滅する光の周りには数匹の蛾と名も知れていないような夜行虫がひらひらと舞っていたが、青年はその群れに見向きもしない。どうやら青年はその先にある宿屋を目指しているらしく、その街灯を過ぎると更に歩を早めた。そうして目的のその宿屋へ着くと青年は一度立ち止まり、一ヶ所だけカーテンの隙間から零れた明かりの見える部屋の窓を見ながらニィ、と企みのある悪戯な笑みを浮かべたのだった。

「………あは♪なーんだ。おチビさん、しっかり起きてるじゃん」

それからの青年の行動は早かった。無邪気に駆け出したかと思いきや、青年は重力を物ともしないような脚力で軽々と宙を飛び、先程の窓へと音もなく着地したのだ。そしてその部屋の中には一人の少年の姿があった。椅子に座り机の上に本を置いている状態で青年には背を向けている。その金髪の少年は余程集中しているのか、黒髪の青年の存在には気づいていない。

青年は息を潜め、ゆっくりと窓を開けた。ギィっと鈍い音がしたが、それでも少年は気づく様子はない。青年は部屋に侵入すると少年の真後ろまで近づき、両手で少年の両目を優しく覆い隠すと同時に唇を少年の耳元まで近づかせて踊るように囁く。

「おっチービさーん、」

「うぎゃっ!」

「ふふっ、だぁれだ?」

リズムのある歌のように青年は少年に問うが、少年は鼓膜を擽る声に肩を震わせていた。そして少年はその問いには答えずに青年の腕の中で小さく藻掻き始める。けれども瞼の上にある手を退かそうと両手で青年の片腕を強く押すが微動だにしなかった。

窓の外ではカーテンの隙間から見える一直線上の部屋の光に誘われて夜行虫がコンコンと硝子に当たっているが、夜行虫のすぐ近くには狙いを定めた真っ黒い烏が一羽。カァ、と哭いた。夜行虫は目先の甘い光に酔いしれて烏には全く気づいていない。暫くその様子を見つめていた烏が不意に漆黒の目玉をギラリと光らせる。そのまま烏は羽根を大きく広げて濃い闇に深く溶けてしまった。

部屋の中の二人はそんなことは露知らず相変わらず弱い力で瞼を塞いでいるのは青年の手。敵わないと察した少年ではあったが、負けずに逆らい続けていた。

「あー、ハイハイ。暴れない暴れない」

「だーっ!離せ!暑苦しい!!その声、エンヴィーだろ!?」

「ブブー。残念、惜しいけどハズレ」

「惜しいって何が。何処ら辺が」

「正解は強くて可愛い愛しのエンヴィー様でした♪」

「………なんだそりゃ」

呆れたように呟く少年に青年は大して気にもせず、満足したのか覆っていた手を名残惜しそうに退いた。瞼の弱い圧迫感が消えて少年はゆっくりと目を開ける。暗闇から明るい世界へと戻る視界はチカチカとしていて少年は数回、目を擦った。

「すっげぇ視野が眩しいんだけど」

「あー。だろうね」

「ふざけんな」

「おチビさんおチビさん、眉間に皺が寄ってるよ」

「当たり前だボケ」

そう言いながら青年の頬を右手の機械鎧で抓る少年。それもそうだろう、少年からしてみれば真夜中の訪問者とはよく言ったもので貴重な時間を潰されたのだから。頬を抓られている青年は痛い痛いと両手を上げて降参のポーズをとるが、その姿勢とは裏腹に青年はへらへらと悪びれもなく無邪気に笑っている。一体どちらが本心なのか、少年は深い溜め息を吐いた。

「あーらら。そんな溜め息したら幸せ逃げちゃうよ?おチビさん」

「その原因を作ってんのはお前だろ」

「ははっ、言えてる」

「ったく。こんな夜中に何しにきたんだよ?お前は」

「んー。ちょっと、ね……」

青年は怪しく唇を上げて弧を作るが、少年はそのことに気づいていなかった。この墓穴が後の後悔になるとは微塵も知らずに。

窓硝子の向こう側では闇を游ぐ烏の眼孔が標的を確実に捉えていた。そしてそのまま一匹の無力な夜行虫は逃げることも出来ず、太い爪に抑えつけられる。夜行虫は為れるがままに鋭い嘴に狩られて貫かれた黒光りする身体はやがてピクリとも動かなくなった。烏は抵抗をしなくなったソレを確認すると躊躇なく腸を抉剔し、食す様はまるで青年と少年の未来を模しているかのように感じられる。

カーテン越しに映る青年の影はじりじりと少しずつ少年の影へと近づいていた。漸く感ずいた少年は一歩青年が近づけば一歩後ろへ退き下がった。

「覚悟、出来てるよね」

「え、ちょ、エンヴィーさん…?」

「なんで後退るの。だめだよ逃げちゃ」

「いやいや、なんで近づくんだよ?」

「わかってるクセに」

青年は不適に嗤う。少年の額からはこれから起こるであろうことに冷や汗が流れた。狭い部屋に逃げ道などある筈もなく、背中には冷たい壁。目の前にはさっきまでのおどけた青年の姿はなく、其処には男としての彼が迫っていた。少年はその場で床に座ると青年もまた膝を着き、少年と目線を合わせる。

「気持ちよくしてあげる」

そう言い、有無を言わせずに少年のズボンの中に手を入れて下着の上からやわやわと半勃ちしたソレを揉んでいく。親指で先端をぐりぐりと刺激してやれば段々と膨張していく少年の下半身。青年はその少年の悶える様子に満足気に再度嗤った。そして青年の長い指先は徐々に少年を追い詰めていく。

「あっ!やっ、やだ、んん…!うぁっ!そこ、触んな!変になる!」

「おチビさんたら期待してたの?ちょっと触っただけなのに濡れ濡れ」

「っの、変態!後で覚えとけよ!」

「………食べちゃうから」

言うや否や青年は少年の顎に手を添えて唇をカプリ。ああ、食われた。

 


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