(双子設定で学パロ) 今朝からモヤモヤとした気分がずっと続いていた。裏腹に青々とした空には雲一つない、快晴の今日。不意にこの季節には珍しく冷たい風が吹き、俺の漆黒の髪を揺らす。ああ、俺の第六感が働いているのだろうか。例えるなら電流のようにぞわりと悪寒が走る。まるで何かの予兆を知らせるかのように。何故だか、もの凄く嫌な予感がする。 「あー、畜生め。鳩尾が痛ぇ……」 此処は屋上の貯水タンクの上。俺はその予感が妙に引っ掛かり、この時間の授業を此処でサボっていた。大の字になって堂々と横たわると視界いっぱいのアオ、あお、青。晴れた天気とは反して俺の心ン中はどんよりと雲ったまま。それというのも本来ならば俺の傍らにはクソ兄貴がいる筈なんだが、今朝はちょいと事情が変わってあの糸目が寝坊しやがった。 「踵はねぇだろ、踵は。俺以外の奴だったら今頃お陀仏じゃねぇの?」 ……ったく、俺の良心をなんだと思ってんだアイツは。俺はぼんやりと今朝の出来事を思い出す。朝に弱いリンは起きるのが大の苦手だからよ。いつものように俺は起きてすぐに寝室に足を運び、 「早く起きねぇと遅刻するぜ、リン」 「ン〜……」 「ほら。起きろって、」 そう言いながら弱い力で身体を揺さぶると同時に寝惚けたリンが勢いよく寝返りをし、強烈な回し蹴りを俺の鳩尾に食らわせやがったんだぜ。予想外の先制攻撃だ。無論、俺は避けることが出来ずにその場で悶絶した。そして未だに鈍痛が残るこの身体。一体どれほどの一撃だったのか、思い返すだけで鳩尾がウズく。その仕返しとばかりに一人家を出た俺を責める者はいないだろう。あのクソ兄貴を除いては、 「グリィドォオ!!」 「随分とご立腹じゃねぇか。オイ」 噂をすればなんのその。嫌な予感が一瞬の内に現実となっちまった。これが夢なら早く覚めたい。学校中にキンキンと響く、まるで警報装置にも似た声が俺を呼んだ。いや、寧ろ叫んだと言うべきか。怒気を含む聞き覚えのあるその声に身体を起こして眼下を見ると校庭には疾風の如く走る、リンの姿が。今は授業中ということもあり、リンは校内中の注目の的だ。そして名前を叫ばれた俺自身も。よかった、授業をサボっていなければ今頃教室にいる奴らの視線が俺に注がれていたことだろう。グッジョブ、俺の研ぎ澄まされた第六感。 「グリードの裏切り者ー!起こしてくれないから遅刻しタ!恨んでやル!!」 「転べ。そのまま転んでしまえ」 俺は人知れず呪祖を唱えた。 「ッ…!」 「………マジでか」 小石に足を取られたのか若しくは俺の呪祖が効いたのか、ズサアァッ、という効果音と共にリンは顔面からコケた。それはもう盛大にな。被害者は俺だというのに妙な罪悪感に囚われるのは何故だろう。しかし全生徒というわけじゃねぇが、少なくとも窓際の席の奴らは見ていたんじゃねぇのか、リンの痴態を。確かに俺は転べとは念じたが、何かの漫画で見た顔面で滑るような手痛いギャグ要素までは望んでいなかったんだけどよ。どうか前者であることを願う。 ふと屋上のタイルに目を移すと、小さな二つの影が不規則に動き回っていることに気がついた。見上げてみると俺の真上では二匹の燕が優雅にも翼を広げ、空を飛んでいる。畜生、平和そのものじゃねぇか。 「……平和すぎて欠伸が出ちまうなぁ」 そう呟いて俺は目線を校庭へと戻すが、既にリンの姿はなかった。そんな中、暖かな陽気に眠気を誘われた俺は瞼をゆっくりと閉じ、浅い眠りにつく。暑くもねぇし寒くもねぇ。今日のような日差しが昼寝には丁度いい。相変わらず空中では二匹の燕が爽快に空を飛び回っていた。 どれくらいの時間が経ったろうか。暫くするとバンッ、と屋上の扉が勢いよく開く音が響いた。元々眠りの浅かった俺はその音に目を覚まし扉の方を見ると、泥まみれまではいかないが土埃りを纏ったリンがいた。どうやら此処まで駆け上がってきたらしい。少し息切れをしているのはそのせいだろう。幸い大した怪我もなさそうで、必然的に目が合った。 「よぉ、兄ちゃん。呆れるほど盛大なコケっぷりだったじゃねぇか」 午前中の授業が終わるまで後数分。先に言葉を発したのは俺だった。それは小馬鹿にしたような口調で。尚且、嫌味たらしく口角を上げながら。 「流石に両の目が剥けるかと思ったヨ。………じゃなイ!なんで今日、起こしてくれなかったんダ。いつも一緒に登校してるのニ!」 「お前が寝惚けて俺の鳩尾に回し蹴りを食らわせたからだ」 「………そうなノ?」 「おう。鳩尾に風穴が開くかと思った」 「グリード、目が笑ってなイ……」 その時、授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。その音響がまるでリンの心境を映し出しているかのように思えてならない。内心、俺は笑いを堪えていた。その後、リンが深々と頭を下げたのは言うまでもねぇよな。とりあえず反省もしていることだしよ、今朝の件はリンが昼飯を奢るっつーことでチャラにしてやる。
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