小説

□私が貴方であるように
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(双子設定で流血表現注意)


小さな頃から鏡を見るようにお互いを見つめて呟きあった言葉。男と男、神は私たちを対なるモノとしてこの世に生を授けた。私たちは二人で一つで、一つだと不完全な生き物ですから。だからお互い寄り添って一生生きていくと決めたんです。小さな屋根裏部屋であれはまだワタシもアナタも小さな小さな子供だったあの頃、手にしたナイフで指を少し切ってワタシの血をアナタの中に。同じように流れる血をアナタの中に。二つの左手の薬指から雫れ落ちる赤は契約の印。

赤い指をお互いの舌に這わし指に滲むソレを舐め取り、

「プライド、痛い?」

と心配そうにワタシの瞳を見上げるアナタに、

「いいえ、痛くないですよ。セリムは、痛いですか…?」

と首を横に振り答えると、

「プライドが痛くないなら、僕も痛くないです」

と笑顔で返してくれたんでしたっけ。

「何ぼーっとしてるんですか?」
 
考え事?と隣に座るアナタはワタシの顔を覗き込む。その言葉にワタシははっとして我に返り、現実へと引き戻された。

「違いますよ、セリム。昔のことを思い出していただけです」

そう言って左手をヒラヒラとすると、

「ああ。アレ、かぁ……」

と、セリムはやんわりと微笑んだ。

「はい。アレ、です」

「…………あのね、プライド。今更なんですけど、本当は指切るの、とっても痛かったんです。だけど、それ以上に僕は嬉しかったんだよ?」

左手の薬指を見つめながら話続けるセリムの横顔は何処か切なさを感じる。浅い傷でしたからもう痕はとっくに癒えて消えてしまったけれど、あの感触は今でもワタシの中にリアルに残っていた。

「へえ、痛かったんですか。私はそれほど痛くありませんでしたが、」

そう言いながら視線の先にあるセリムの左手をそっと握って自分の方へと引き寄せた。

「よく我慢しましたね」

あやすようにセリムの頭を撫でる。規則的なリズムを刻む二人の心音とセリムの香りに包まれたワタシの腕の中で、

「もう僕だって子供じゃないんですからね!恥ずかしいからやめて下さいって」
 
セリムはワタシを睨んだ。けれども、その瞳はちっとも怖くはなくて。言葉に怒気のような強みも含まれてはいなかった。ああ、やっぱりセリムはあの頃と同じセリムのままなんですね、と柄にもなく思ってしまった。これが愛しい、と呼ばれる感情なんでしょうね、きっと。

「ちょっとぉ、プライド聞いてる?」

「そう怒らないで下さい。ちゃんと聞いてますよ。セリムはもう立派な男の子ですから、ね?」

「まぁた、そうやってプライドは僕を子供扱いして、………んぅ」

不意打ちに頭を撫でていた手を頬に滑らせ、ゆっくりとセリムに口付ける。そっと目を瞑るとセリムはそれに答え、段々と深くなる口付け。角度を変えて何度も何度も重なり合う唇は同じ形。絡み合う指も、手のサイズは違うがよく似ている。首筋に当たる髪の毛の色も同じ色。ソファーに沈むアナタが男で、覆い被さるワタシも男。

それから、ゆっくりと開いた瞳に映る相手の瞳も同じ紫色だ。だって私たちは瓜二つのそっくりな双子ですから。

「ふふっ。大好きです、プライド」

そう言って微笑むアナタの顔は、

「私も、セリムと同じ気持ちですよ」
 
微笑むワタシの表情ときっとそんなに変わらないだろう。しかしこれは禁忌、倫理に背くもの。この生を終えた時、私たちに天国の扉は開かないかもしれない。…………それでも。

愛する人と愛し合うことが罪だと言うなら、真実の愛とは何なのでしょう。これが本当に罪だと言うなら、この先にある罰は一体何なのでしょうか。純粋で穢れのないこの愛情を否定するのならば、これ以上の真実の愛を示して下さい。そんなものはきっと、存在し得ないでしょうけど。

「君が隣にいるなら、それ以上もそれ以下も私は望みませんので」

「僕だってそうだもんっ!」

「張り合わなくて結構ですよ、セリム」

私たちは今日も愛を囁き合うのです。




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