小説

□退屈にさせない
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(アリスパロ・エド女体化)


此処は何処?俺は誰?

そんなことを言うのはお伽話の中だけだと思ってたけど、本当にこんなことを言う時があるんだな。俺は今日をもって実感、というか痛感した。

「此処は何処なんだ?俺は、………俺。だよな?」

後ろを振り返っても誰もいない。というよりも何もない。あるのは大きな木とメルヘンな草花だけだ。これはなんだろう。夢なんだろうか、そう思い頬をぐっと引っ張る。………痛かった。夢じゃねぇんだコレ。現実なんだ。

「ってか、さっきのウサギは何処に行ったんだよ…!」
 
さっき見かけたウサギ……。腰まで届く長い黒髪で少し、いや、かなり露出に近い服を着ているのに耳と尻尾だけは真っ白で、そして端正な顔立ちで細身なウサギ。大体、ウサギのくせに人間みたいでしかも服を、着ているとまではいかないかもしれねぇけど。あからさまにおかしい!暇で暇で退屈で気晴らしに散歩に出て、そんなウサギを見たりしたら。これは追いかけるしかないよな?無論、俺はスカートの裾を手で持ちながら迷いなく駆け出したさ。

なのに。木の根の穴に落ちたかと思えばいつの間にかメルヘンチックな森に来てるし、ウサギは見失うし。最悪だ。この年で迷子か俺は。

「はあああぁー…!」

盛大な溜め息をついて近くにあったきり株に座り一休み。その際、潰した花たちは無視の方向で!

「はぁー、マジで困った。これから俺はどうすりゃいいんだ………」

「ねえ、」

「なんだよ」

「あのさぁ、僕の森で何してるの?可愛いおチビさん」

「はあ?お前の森?何言ってんだ?森は皆の公共の場だろ、俺だってちゃんと税金払ってんだからちょっとくらい休んでもいいだろ!ケチ!それから俺はチビじゃねぇっ!エドワードだ!」
 
「ハイハイ。ごめんね?気に障るようなこと言って。でも、此処はこのエンヴィーの森なんだから。ルールとか掟とか、そんなの関係ないよ」

あ、れ?俺、今誰と会話してた?此処は俺しかいない筈なのに……。

「誰だよ、」

そう言ってくるりと後ろを振り向くと、目の前には俺が探していた張本人が。

「ううううウサギ…!」

「ん?僕のこと知ってるの?」

「知ってるも何も俺はお前を追いかけて此処まで来たんだ。一体、此処は何処なんだよ?」

「ふーん、そうなんだ。僕には関係ないけど。此処は森だよ森。そんなことも分からないの?」

「違ぇし!そんなの周りを見れば分かるだろ!俺が聞いてるのはこの森の名前とか具体的な場所だよ!」

なんだよ、このウサギ……。耳がひょこひょこ動いてるのは、まあ、可愛いけどそれ以外はちっとも可愛くねぇじゃん。

「もういい、俺帰る。名前、エンヴィーだっけ?帰り道教えてくれよ」

「来たばかりなのにもう帰っちゃうの?これから面白くなるのに。勿体ないなぁホント実に勿体ないよ」

そう言いながらウサギは不適に微笑む。その笑顔が笑顔と呼べるほど純粋なんかじゃなくて、黒く怪しい雰囲気が漂っているのは明らかだった。
 
「退屈、しないのか?」

「うん、退屈なんかさせないよ。それは約束してあげる。なんたって此処は不思議の国。何が起こってどうなるのか、それが凶と出るのか吉と出るのかも誰にも分からないんだから。物語は自分で作るんだよ、エドワード。……そういうの、ワクワクしない?」

「なんかすげぇな。俺、そういうの好きかも。………やっぱり帰るのはやめた!せっかく来たんだ、トコトン付き合ってやるよ!」

「ふふっ、そうこなくっちゃ。ついておいでよ、案内してあげる」

ウサギは後ろを向いてこのただっ広い森の中を歩き出した。そして俺もまた後ろを向き、ウサギの、エンヴィーの背を追った。此処が何処なのかも分からないのにこれから始まる、不思議な国への旅に胸踊らせて。

「約束した以上、俺を退屈なんかさせんなよ。エンヴィー」

「うっわ、おチビさんは何処までも強気だねぇ。君、本当に女の子?」

「喧嘩売ってんのか、てめぇ……」

「ラビットジョークなのにー」

「そんなモン、知るか」

いざ行かん、お伽の国へ!




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