小説

□日頃の恨み晴らします
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俺とアルがセントラルに帰還し数日が経つ。軍の狗になった以上、得られた賢者の石の情報や俺らが旅をした行き先について云々の報告書を大佐に渡さなくてはならないワケで。三日、だ。俺は昼夜を問わず徹夜で躍起になって報告書を仕上げることでいっぱいいっぱいだった。それというのも先々月と先月の分を溜めていた俺の責任なんだけどな。アルの言う通り少しずつ書き綴ってりゃよかった。後悔したって今更だよな。あー、面倒臭ぇ。眠ぃ。

「終ーわーんーねーえー」
 
しーん。無音。呟いてみるが返答してくれる筈のアルは生憎、この宿屋から幾分離れたところまで出掛けちまってるし。アル曰く、兄さんが集中できるように!らしいが、ついでに今晩の夕食を調達してくるとも言っていた。アルには悪いけどな、逆に集中力もクソもない。暇だ。凄まじく寝たい。つーか、他に何書けってんだ。結局は賢者の石の情報も嘘っぱちだったし、ぶっちゃけ書くネタは尽きた。そうだ、もう書くことはねぇんだ。なら後のことはクソ大佐に任せようそうしよう。……ってな感じで庭先までやってきた俺。

「お?」

視野を植木やら花壇やらの方に移すと大佐がいた。しかも動きがキモイ。大佐の動作はキョロキョロと辺りを見回しながら、しきりに周りを気にしている。更に抜き足歩きときたら考えられることは一つしかない。

「まーた仕事サボって抜け出してきたのかよ、クソ大佐ぁ!」

「鋼のォオオ!」
 
言うが早いが壮絶な面で唇に人指し指を当ててこっちに向かってきた。恐らく声を荒げるな、とでも言いたいんだろう。なんなんだこのテンションは。俺は徹夜で寝不足だっつーのに。過労と寝不足でげんなりとした俺とはうって代わり、大佐は元気すぎるくらいの活力で満ち満ちていた。テンションに温度差を感じるのは不可抗力だ。

「違う。違うぞ。勘違いするな、鋼の!これは、その、……息抜きでだなあ!」

大佐の見え見えの言い訳が痛々しいと思うのは俺だけじゃないだろう。大方、大佐のことだ。溜りに溜った仕事を部下に押し付けて、適当なこと言って抜け出してきたに決まってんだ。多分、トイレに行ってくる、なんてありきたりな理由で仕事場から抜けてきたんだ。絶対そうだ。俺は大佐がサボってる間、必死に報告書と格闘してたってのに。いいご身分だな、大佐!日頃の恨み晴らしてやる。

「あ、中尉。こんにちはー」

「中尉!ご、誤解だ!私はトイレに、」

「嘘だけどな」

「……鋼のォオオ!」
 
今のは自首したようなモンだな。俺の予想通り、どうやら中尉たちにはトイレを理由にして抜け出してきたようだ。丁度その時だ。ふと背筋がゾクッとするような悪寒がしたのは。目線を大佐の後ろに移すと鬼の形相をしたホークアイ中尉がいた。デジャヴ!まさか本当に中尉が来るとは思いもしなかった。中尉の背後にメラメラと燃え上がる殺気が漂っていたことは見なかったことにしよう。そう、俺は何も見なかったんだ。………。あ。我に返り、俺は慌てて報告書を大佐に押しつけるように手渡す。

「大佐コレに判子よろしく!」

「?なんだもう行くのか」

「あ、ああ。じゃあな大佐!」

何か不備があったら連絡くれよ!

俺はそれだけを言い残して猛ダッシュ。大佐ご愁傷様。直後後ろから大佐の断末魔にも似た声が聞こえたような気もするが、俺が振り向くことは一切なかった。振り向いたら最期、そこには地獄絵図が広がっているからだ。そして俺が門を抜けた頃、遠くで中尉の怒声が聞こえた。相変わらず大佐のサボり癖は健在らしい。いや、まあ。大佐のサボり癖は今に始まったことじゃないけどな。そんな大佐を、中尉に今頃こってり絞られているであろう本人を想像しながら俺は思う。大佐ざまあ!ってな!




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