ホワイトスターに黙祷を、

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【ノストラダムスへの黙示録】



緩やかに過ごす休日が終わり、名残惜しく思っていれば 直ぐに月曜日はやって来た。


週初めの登校日、遊戯は寝坊する事もなく家を出て 遊雨を家まで迎えに行っていた。

これは珍しい事だった。

家の近い二人の間では時間に余裕のある方が迎えに行くという不文律のルールがある為、

ゲームに没頭するタイプの遊戯より遊雨が迎えに来る回数の方が多かったからだ。


遊雨を迎えに行くのはいつぶりだろうか、と徒歩で充分事足りる距離の間に思い出そうとしていた。



“浅沙”の表札が掛けられた入口の脇にあるインターホンを押して、

彼女 または家族の応答を待っていると、
家の中から慌ただしい足音がひとつ駆けてきて。

それは玄関前まで来ると、止まる時間も惜しいと言わんばかりに勢いよく、少しだけドアを開けた。


開き戸を少し開けた隙間から身体を半分だけ覗かせた彼女は、まだ制服を着てはいなかった。



『遊戯…!ご、ごめんなさい まだ着替えてなくって…。もう少しだけ待ってて!』


「だからって、そんな格好で出てくれなくてもいいよ…!」



恥ずかしそうに扉にしがみ付いて隠れている遊雨は、

パジャマ代わりにしているのだろう 薄いワンピース姿のままだった。


扉で全身を伺う事は出来ないが サンダルを履いた白い左足が隙間から覗き、

いつも整えられいる綺麗な黒髪も ぴょんと跳ねた寝癖によって乱されていて、どきどきしてしまった。

彼女は自分が思っていた以上に可愛らしく綺麗だったのだ。



『後で何か奢るから、現在進行形で見てる事は忘れてね!』



そう言って早々に家の中に引き返していった彼女に勿体無いとか感じながら

今日のハプニングは忘れてあげられそうにないなぁ、と笑った。


もしかするなら今日はラッキーなのかもしれない、と。







幼馴染に寝坊という失態と同時に、身支度のなっていない姿を見られてしまった その後。

宣言通りに少しの間だけ遊戯には待っていてもらい、学生服姿へと変身を済ませた。

今度こそ出てきた彼女はいつも通りの姿で、寝癖なんて綺麗に無くなっていた。


因みに抜かり無く朝食も済ませてあって、時間が無くても朝ごはんは抜かない派らしい。

(故に時間配分は さぞかし華麗なものだっただろうと思う)




「おー、遊戯!また遊雨と登校かぁ?お前らホントは双子だったりしてな」


「城之内くん!おはよう」


『おはよう。
…ねぇ、その怪我どうしたの?』



丁度同じ時間に登校していた城之内が二人を見つけ、隣に並んだ。

本人はいつも通りに元気そうだが その頬にはキズテープが貼られていて、少し腫れている様だ。



「あぁ、これか?ついてねぇぜ…」



話によれば、昨日街で不良に言い掛かりを付けられて喧嘩を吹っ掛けられた時に、一発喰らってしまったのだとか。


城之内は元々派手に暴れていた時期もあってか、
本人も知らない所で名が知れているのだろう。

絡まれる、勝負を吹っ掛けられる、襲われる…。

今回の様な喧嘩に発展する様な事に巻き込まれたりもするらしい。

それも今では大分回数も減っている様だが 治まった訳ではなさそうだ。



「まぁ、でもよ。4人共ボコボコにしてやったけどな!」


「えっ、4人も!?」


『4人相手で一発だけなら、ラッキーって事にしておいちゃ駄目なの?』


「いいや、解ってねぇな。一発たりとも喰らっちゃいけねーってモンなんだよ!」



一発だけで済んでラッキーだった、と思う遊戯と

一発でもついてなかった、と思う城之内。

喧嘩の美学について隣で熱く語る城之内に関心しつつ、遊雨はその違いに個性を感じていた。

一見全く性質の違う様に見える二人でも、それが丁度いいバランスを取っている。

互いを補い合い、影響し合える仲であると言える。とてもいい友人だ。



そんな“ついている、ついていない”という会話に示し合わせたかの様に、

異変は静かに平穏を乱すチャンスを狙って潜んでいるのだった。



「あ…、」



それは丁度真上辺りの電柱の、器具を取り外す作業を行っていた作業員の

甚大なミスを犯してしまったという警告を知らせる、小さ過ぎる声だった。



『えっ…?』
「あ、危ねっ…!!」



気が付いた城之内は真っ先に、二人にそれ以上足を進めるなと意地でも手を伸ばして引き留めにかかる。

ドスン!と落ちてきた鉄の塊は、三人の足元ぎりぎりの地面に叩き付けられた。



「…セーフ」

『……あ、危なすぎるって』

「〜〜〜っ!!」



アスファルトの上で薄く砂埃を立てた災厄に
城之内、遊雨、遊戯と それぞれのリアクションをとるが

一瞬見えた気がした死の影に声が出ない事は同じだった。



「おーい、悪りぃ。大丈夫ー?」


『…取り敢えず。そんな人さまの、しかも被害者の頭の上からで無く 地上で謝って頂けませんか。土下座して』



女だからといって か弱く気を失ったりは出来ないのが現実というものだろう。

現に彼女はこんなにも元気に作業員を叱っているのだから。




『ところで城之内くん』


「ん?何だ?」


『もう放してくれても大丈夫だよ。ありがとう』


「あ…、悪りぃ。無事でよかったぜ!」



鉄の塊が落下してくる危機に、城之内は咄嗟に遊戯を後ろへ引っ張り、
遊雨を抱きしめて庇ってくれていた。

本人も遊雨も恐怖どころで そんな事すっかり忘れてしまっていたが。



「にしても…。やっぱりついてない!!」


「当たらなかったんだからラッキーだよ」


『五分五分』



三者三通りの意見で纏まる事なく学校の門を潜る。






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