Stargazer

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【重ならなくなった影】


ほんの少しずつ、噛み合わなくなっていた。

少しだけ ずれ始めた流れに、どうする事も出来ないまま。


例えばこれが運命だというのなら。

それを“嫌だ”と言う事は罪で、我が儘な事なのだろうか。






目に見えなくても肌で、感覚で感じとる事がある。
彼の中に 何かが生まれ始めているんだ、と。

彼の瞳は 迷っていた。揺れている。



『…ねぇ、ジャック。どうした、の?』


「何がだ」


『不安なの?迷ってるの?痛いの?
…何処かへ 行ってしまうの?』



背を向けたままだったジャックが乱暴に振り向いた。

言葉は無かったけれど、視線から感じる。目は口程にものを言う。

“何を、言っている…!”


彼女の一言に揺さぶられて暴れそうになった心を ぐっと押し込んで、静かに言うのだ。



「…お前はいつも、詩人の様にものを言うのだなぁ。シェリー」



彼女のそういうところは好きだ。
だが同時に厄介になる、今は。

暫くあの瞳を見る事は出来ないだろう。
あの色は 透明過ぎる。淀み無く、全てを綺麗に映し出すからだ。



『ジャック…、』


「…オレに構うな、シェリー。一人で居たいんだ」



ジャックは彼女の存在を遠ざける様に背を向けて、その場を離れてしまった。


ただひとり、灰色の部屋に立ち尽したままになったシェリーの手のひらは 空(くう)を掴んだだけだった。


去ってゆく彼の影は もう自分と同じ場所を歩いていない様に見えて。

自分の影と彼の影が 同じ場所で、同じ様に重なる事が無くなるんだと

もの静かな静寂が語っている気がした。





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