Stargazer

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【幼かった少女の面影】


心許ない明かりだが 消してしまうと真っ暗になってしまう、夜。

雨がコンクリートを打つ音に紛れて、遠くで雷鳴が鳴っている。


雨の音はある種、静寂より静寂だ。
心地いい程に 他の一切の雑音を掻き消してくれる。

この音が運んでくるものは 未来より過去が多い。

ただ静かに記憶を振るわせる。

雨に濡れて綺麗だった彼女の事を想い出させるのだ、あの日の事。



物思いに耽っていれば トントン、と控え目な音でドアがノックされた。

来客は誰だか判っている。
此処には遊星と彼女しか居ないからだ。


雨の日によく部屋を訪れる彼女なので、
ひょっとしたら今日は来るんじゃないかと感じてはいたから

ドアを開けて迎える為に ベッドから立ち上がった。



「シェリー。どうした」



まぁ見れば何を望んでいるのかは一目で分かるが、
彼女の口から聞きたくて知らないふりをしてみた。


枕を胸に抱き締めて恥ずかしそうに縮こまっている彼女の寝巻きは、

遊星とお揃いの柄のロングTシャツをワンピース代わりにしたもの。

この二人の家着がお揃いな事が多いのは、シェリーが遊星の服を貸してもらっていた頃の名残だったり

それ程に仲がいい証みたいなものだと思われる。



『あ、のね遊星…。今夜一緒に居てもいい?』


「…一緒に居るだけでいいのか?」


『ぅ、一緒に寝て下さい』


「あぁ。来ると思っていたからな」



頭を一撫でした遊星の表情は、ちょっと悪戯な微笑みを湛えていたけれど、やさしい。

滅多に人前で笑わない人が微笑むと どきどきする。

それを隠したくてシェリーは、解っていたなら言わせないでよ!と俯いた。






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