隣にいる者1

□08
1ページ/1ページ




「でね、おかしいんだ。
お母さんがねオサカナくわえた
ドラネコ追っかけてはだしでかけてったのよ」
「……」
「――って、ねえさっきから聞いてる?ヒカル?」

あかりの言葉など今のヒカルには届かない。
両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、
今までのことを思い出そうとしている

(昨日は塔矢と対局できた。
今日は確か、塔矢先生との対局だったよな。
前は緒方先生に引っ張られて
碁会所に行くことになったけど、
今回もそうなるのか?
佐為がいない時点で前とは違うんだ。
何が起こるかわからねーってことだよな)

「ヒカル…?帰り道こっちだよ」
「おまえ先に帰ってろ」
「また囲碁教室行くの?」
「今日は囲碁教室の日じゃねーよ」
「もう〜〜最近のヒカルはヘンだよ〜」

後ろで叫んでいるあかりを気にもせず、
ヒカルはまっすぐに
昨日アキラの対局した碁会所の前にやって来た

(なあ佐為。おまえ、今どこにいるんだ?
オレが小さくなったのに、
おまえは消えたままなのか?佐為……)

「キミ!!」
「……緒方先生」

ヒカルをたまたま見つけた緒方は
ヒカルに駆け寄ってきて声をかけた。
そんな緒方を振り返ったヒカルは元気がない。

「今すぐ来てくれ!
キミに会いたいって人がいるんだ」
「……わかった、行くよ」

緒方の後に付いて行き、碁会所に行くヒカルは、
また前とは違うんだなと気付き、
不安そうな表情に変わる。
前は緒方に無理やり引っ張られ碁会所にやって来たのだ

「塔矢名人!今ちょうどそこであの――
あの男の子を見つけたので連れてきました!」
「……塔矢先生」
「その子かアキラに勝ったというのは。
それも2度も。あのアキラに……
キミの実力を知りたい。座りたまえ」
「……はい」

行洋が既に座っているので、
その向い側にヒカルは
肩から黒色のランドセルを下ろして、
横に置きながら座る

「石を2つ置きなさい。
アキラとはいつも3つで打っているが、
キミはそのアキラに勝った。
ならば2子でいいだろう」
「え?あの、オレも3子じゃ駄目ですか?」
「何だ、2子では無理か?」
「……はい」

(何で2子なんて言うんだよ!
前は3子だっただろ?
何で同じにしねーんだよ!
オレが困るから3子にしてくれ!)

ヒカルの焦りが顔をに出ていたのか、
行洋は首を縦に振った

「わかった、3子でいい」
「ありがとうございます」

ホッと息をつき、3石を置き、対局が始まった。
ヒカルが知っている通りに対局が進み、
パチンとヒカルが10手目を打った時、
ランドセルを掴み、わああああっと
大声を上げて碁会所から飛び出した。
そのまま走り、公園のベンチに腰を下ろして息を整える

「……はぁ、なんとか前と同じにはなったけど、
何で2子なんて言ったんだよ。
オレは前と同じように
打つって決めたんだから、これ以上変わんな!」
「ヒカル?なに一人で大きな声出してるの?」
「あかり…」

ヒカルの大声が聞こえ、
犬の散歩中だったあかりは
公園に入り、ヒカルの側にやってきた

「今ヒカルんち寄ったんだよ。
こんな時間までどこ行ってたの?」
「碁」
「碁?今日囲碁教室ないって言ってたじゃない」
「今日行ってたのは碁会所」
「碁会所?」
「わかんねーならいいんだよ。オレもう帰るから」
「あ、待ってよ!」
「んだよ」

スタスタと歩き出すヒカルの後を
慌ててあかりは追い掛け、
姉が通っている中学の創立祭で使える
たこ焼き券を出して一緒に行こうと誘うが、
あっさりと断られてしまい、
2時に校門の前だからねと言って、
犬を連れて反対方向に走って行った

「何が2時に校門の前だ。来なかったじゃねーか」

前にあかりが校門の前に来なくて、
お金を持ってきていなかったヒカルは
たこ焼き横目に指をくわえていることしか
できなかったことをよく覚えていたので
あかりの後ろ姿を見ながら悪態をついたのだ。




2014/9/7

07へ/目次/09へ
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ