隣にいる者1

□07
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「懐かしいな」

市川に前にもらったチラシに書いてあった
子供囲碁大会にヒカルは来ていた。
子供囲碁大会は小学生の部と中学生の部に分かれており、
ヒカルはチラチラといろんな対局を見ながら歩いていた。
そしてある場所で足をとめた

(前はここで俺が口を出しちゃって、
やり直すことになったんだよな。
どうする言うか?でもそんなことをしたら……)

(ん?あの子は?)

ずいぶんと近くで対局を見ている
ヒカルが気になった人物がいた。
彼の名は緒方精次。若手NO.1と言われている棋士だ
眼鏡をかけて白いスーツ姿という
誰の目にも直ぐに止まりそうな格好をしている

(さっき、違うところも見ていたような…。
あ、行ってしまった。いったい何を見ていたんだ?)

今までキョロキョロしていたヒカルが
足を止めて見ていたものが気になった緒方は、
その対局を見るために近づいた。

(これか、左上スミ。あ、打ち損じたか)

黒を持っていた子が打った場所は1の三。
急所は1の二で、黒が打ち損てしまい、死んでしまった

(あの子は少し立ち止まって、
直ぐに行ってしまったが、まさか気付いたのか?)

そう思った緒方の行動は早かった。
大会の会場から出たヒカルを呼びとめる

「そこの、キミ!」
「え、オレ?って緒方先生!?」
「「さっきキミが見ていた対局。
左上スミの戦い。キミならどう打つ?」
「な、なんでオレに聞くんですか?」

予測のできない出来ごとに、気が動転しているヒカル。
何もしていないのに緒方に捕まってしまった理由がわからない

「キョロキョロとしながら対局を見ていたが、
あそこの対局だけ足を少し止めた。どこに打つと考えたんだ?」
「1の二!1の二だよ!教えたから手、離してよ!」
「1の二。成程、そうか。……キミ待ってくれ!名前は!」

手を離した瞬間に逃げ出したヒカル。
名前を聞くために捕まえようとして伸ばした手は
宙を切り、捉えることができなかった。

「チラッと見てこの手を考え付いたのか?
我々プロでもちょっと考えるこの局面を……いったいあの子は」
「緒方くん?」
「塔矢先生。いらっしゃったのですか」

緒方の名を呼んだのは塔矢行洋。
アキラの父親であり、プロ棋士。
そして最も神の一手に近いと言われている人物だ。

「どうしたんだ?こんなところで」
「少し気になる少年がいましてね。」
「ほう、緒方くんが気に留めるような子がいたのか」
「アキラくんと同い年ぐらいの子でした。
参加者ではないのですが、
チラッ見ただけで難しい死活の一手を即答しました」
「アキラと同い年か」
「名前を聞いておけばよかったですね」
「彼がそれほどの打ち手なら遅かれ早かれ、
いずれは我々棋士の前に現れることになる」
「そうですね」

大会会場へと入って行く行洋の後に緒方が付いて行く。
しかし、直ぐに行洋が振り向いたので足を止める

「そういえば、まだキミには言っていなかったな」
「何ですか?」
「南条さんの娘が海王中を受験するらしい」
「南条先生の娘が?もうそんな大きくなったんですか」
「海王中に受かったら
娘のヒトミちゃんだけこっちに来させるそうだ」
「一人暮らしですか?」
「そうだ。できれば緒方くんも気にかけて欲しい」
「ええ、南条先生にはお世話になりましたからね」
「ヒトミちゃんがアキラのいい刺激になればいいのだが」
「アキラくん、南条先生の娘、さっきの少年。
期待できそうな子たちが出てきましたね」

自分が話題に上がっているとは思っていないヒカルは
緒方から逃げた後、アキラと会っていた

「進藤……進藤ヒカル!!」
「塔矢、そっかお前が来るんだったんだな」
「何のことだ?」
「あ、いや、お前には関係ねえよ!」

つい口を滑らしてしまったヒカルは慌てて話を逸らす

「え、えっとー。お前は囲碁大会に出なかったんだな」
「キミは出たのか?」
「オレはチラッと覗いただけ。
帰ろうとした時緒方さんに捕まってさ、もう焦った焦った」
「緒方さんに?キミは何をしたんだ?」
「わかんねーんだよ。オレはただ対局を見てただけだ」
「……進藤。時間があるなら今から一局打たないか?」
「え?」

(やっべー、なんか色々変わってきてるよ!)

前は、ヒカルがアキラを怒らせてしまい、
一局打つことになったが、
今回は別に怒らせたわけでもないのに
対局を申し込まれてしまった。
ここで断ったら余計に可笑しくなると思ったヒカルは頷いて
アキラについて囲碁サロンへと行った。
中に入ると、この前アキラに勝ったことで
有名になってしまったため、人が集まってくる。
そんなことを気にせず二人は座り、
ヒカルが先番で対局が始まった

(よかった、オレが先番だ。
行くぞ、佐為。お前の碁を見せてやれ!)











































「……ありません」

(よかった、前と同じ内容だった。
一応同じに進んでいるみたいだな)

予想外の出来事が起こり、
このまま変わっていってしまうのではないか
という恐怖があったが、
そうではなかったのでヒカルは安心した。

「塔矢、ありがとな」

俯いているアキラにそれだけ言って
ヒカルは出て行ったのだった



2014/6/7

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