隣にいる者1

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「はぁ……」
『どうしたんですか?
授業中なのに塔矢の方ばかり向いて』

2学期が始まり、
斜め前のもう一つ前の席にいる塔矢を見ては
溜め息をついているヒトミに
佐為は不思議そうに話しかけた

『本気で塔矢は私と打ちたいんだなと思ってね。
泣かせるなんてしたくなかった』
『でも塔矢は待ってくれると
言って下さったじゃないですか』
『そうだけどさ、私が塔矢と打たなかったのは、
本気でなくちゃ塔矢とは打ちたくないっていう
自分勝手な考えからだよ』
『では、本気で打ちますか?』
『それはまだイヤだ』
『ヒトミもゆっくり考えた方がいいみたいですね』
『そうみたい』

「聞いているのか、南条!」
「あ、はい……」

先生の大きな声で授業中だったことを思い出し、
名前を呼ばれたので立ち上がった。

「(2)の答えは何だ?」
「わかりません」
「授業中ずっと塔矢を見ているからだ」
「あはははは」
「ヒューヒュー、
南条は塔矢が好きなのか?」
「お前ら付き合っちゃえよ」
「はぁ……」

すぐにこういう内容になると
悪乗りするクラスの男子に
溜め息をついて席に着いた。

そしてこっちを驚いたように見ているアキラに
ごめんということを伝えたくて、
顔の前で手を合わせた。

そんなヒトミにアキラは笑顔でいいよと
大きく口を動かした。

「お前ら静かにしろー」
「はーい」

先生の注意で直ぐに静かになり、授業が再開された





































起立、礼の挨拶で長い学校が終わった。
あまり物が入っていない
軽い鞄を持ち教室を出ようとした時、
クラスの委員長に呼びとめられた。

ちょっと来てほしいと言われ
付いて行くと人通りの少ない所に来た

「どうしたの?」
「オレ、お前が好きだ」
「ありがとう」
「もしよかったら、付き合ってほしい」
「ごめんね、それはできない」
「やっぱり塔矢か?」
「違うよ」

委員長から空に視線を移したヒトミは
塔矢じゃないと続ける

「じゃあ他に誰かいるのか?」
「いないよ」
「オレを好きじゃなくてもいい。
付き合うのは無理か?」
「ごめん」
「そっか」

付き合ってもどうせすぐに
別れることになるということが
ヒトミには分かっていた。

前の世界でもこうして告白されて、
同じように好きでなくても
付き合ってほしいと言われて付き合ったことがある。

でもヒトミは恋愛よりも碁の方が大切なので、
すぐに別れてしまったのだ。
同じことを繰り返す趣味はない。

「まあこの話は終わり。
別のことで聞きたいことがあるんだよ」
「何?」

ここで委員長に視線を戻した

「お前最近元気ないだろ?
二学期に入ってから
一回も笑った顔を見たことねえと思ってな」
「大したことないよ。心配してくれてありがとう」
「話を聞くくらいオレにもできるからな」
「うん、気が向いたらね」
「そっか、じゃあな」
「バイバイ」

委員長を見送ってからまた溜め息が出た。
二学期に入ってから笑っていなかったと指摘され、
確かにその通りだなと思った。

「しっかりしないと」
「ヒトミ」
「塔矢……いつからいたの?」
「ごめん。委員長とヒトミが
教室から出て行くのが見えたから
後をつけたんだ。……だから全部聞いていた」
「そっか。私帰るから」
「待って」
「何?」
「あ、えっと授業中ボクを見ていたって本当?」
「本当。最近ずっと塔矢を見てる」
「え!?」
「塔矢には凄く悪いことをしたのに、
待ってくれるって言ってくれた。
それに安心した自分が最低だ。ずっと自己嫌悪よ」
「……ボクはヒトミが打ってくれるまで待つよ。
ちゃんと話してくれるのも。
これはボクがキミと打ちたいから勝手に待つと言ったんだ。
だからキミが自己嫌悪に陥る必要はない」
「うん、ありがとう。
できるだけ早く言えるように頑張るよ」
「うん」

改めて、これからどうしていくかを
考えた方がいいなと思ったヒトミだった





2015/02/27



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