隣にいる者2

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「ヒトミ、昨日はごめん」
「昨日?あ、あれか」

教室に入った瞬間にアキラに謝られて
一体何のことだと思ったヒトミは、
昨日の記憶を引っ張りだし、自分がアキラに怒って
そのままヒカルと帰ったことを思い出した

「あれは塔矢が悪いわけじゃ……」
「怒ってないのか?昨日凄く怒っていたのに」
「うん。昨日は進藤のことで頭がいっぱいで、
塔矢の事完全に忘れていたから」
「……昨日、何で自分の実力を知っているのか
と言われてしまったが、キミの実力は違うのか?」
「……違わないよ。
ただ、イラついていて言っちゃっただけ」
「何かあったのか?」

アキラの問いにヒトミは黙り込み、
目を逸らしてしまった

「ヒトミ」
「気にしないで。大丈夫だから」
「キミの大丈夫は大丈夫じゃないんだろ?」
「……」

何を言っても引かなそうなアキラに
ヒトミはついに口を閉ざした。
言うつもりはないのだ。

「ヒトミ!」
「塔矢には関係ないよ」
「関係ないとはなんだ!」
「まだ会って半年くらいしか経ってない人に、
何を言えっていうの?」
「っ……」
「ごめん、あなたに当たるつもりはないの。
だから、暫く放っておいて」
「……わかった」

納得いかない表情でアキラは自分の席に着いた。
ヒトミとアキラが険悪ムードなことに
クラスメートは驚いていたが、
誰もその理由を聞くような野暮なことはしなかった。


































放課後、ヒトミは家に帰らず、
ボーっと外を歩いてた

『帰らないのですか?』
『ごめん、碁打ちたいよね』
『確かに打ちたいですが、
それはヒトミが元気になってからです』
『……ありがとう。棋院に行こうか』
『棋院ですか?はい、わかりました』

何故行くのか理由を聞くことはせず、
黙ってヒトミの後に着いて行く佐為。
ヒトミの背中を見つめながら
自分には何ができるのかと頭を悩ませていた。

そんなことをしているうちに棋院に着き、
資料室に通してもらった

「誰の棋譜が見たいんだ?」
「秀策のをお願いできますか?」
「秀策ね、ちょっと待ってて」

『私の棋譜など見てどうするのですか?』
『考えたいことがあって』
『そうですか』

「これだね。じゃ、私は行くから済んだら呼んでね」
「はい、ありがとうございました」

役員のおじさんが出て行ったあと、
ヒトミイスに座り、棋譜を見始めた

『うわー、懐かしいですね。
このようなものまで残っているとは嬉しいですね』
「……進藤の気持ちが今ならわかる」
『え?』
「こうやっていろんな棋譜を見て、
改めてあなたの凄さがわかる。
全てあなたに打たせた方がいいのかもしれない」
『ヒトミ?』
「自分を殺して、あなたの身体として
生きた方が楽なのかもしれない」
『何を言っているのですか!』
「……まだ、自分を客観的に
見てしまっているのかもしれない。
それにやっぱりこの世界が怖い」
『怖い……ですか?』
「自分がいることで全てが変わってしまうことが。
この世界に私の碁が存在してしまうことが」
『私はヒトミと碁を打つのが好きです』
「ありがとう」
『認めませんからね!
私の身体として、私の代わりに碁を打つために
存在するなどいけません!』
「でも」
『でもじゃありません!
いいですか、あなたが時を遡って
この世界に存在するのは理由があるのです!』
「……なら、いいな」

少しだけ、ほんの少しだけ
元気を取り戻したヒトミに、
佐為は安心したのだった





2015/02/28



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