隣にいる者3

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プロ試験が終わり
ヒトミはスケジュール帳を開きながら
これからのことを佐為と話していた

「もう10月も終わる。、
明日の学校で風香に香菜ちゃんのことを話して、
どのくらいのペースで家に来れるかを聞く。
うーんできれば毎日来てほしいんだけどな」
『ヒトミと私の対局は絶対毎日しなくてはダメですよ』
「んー、となると学校終わって
夕飯買って帰ってきて
着替えたりなんだりして5時だとして、
一局打って、夕飯食べてもう一局くらいか?
それ以上打つと帰るのも遅くなるだろうし」
『何時まで大丈夫なんでしょうね』
「やっぱり明日詳しいことを
聞いてから決めたほうがよさそうだね。」
『そうですね』
「ねえ、佐為」
『何ですか?』
「絶対香菜ちゃんに院生になってもらおうね。
だっておかしいでしょ。碁をやりたくて、
あんなに碁が好きな子が碁を辞めないといけないなんて」
『ええ、おかしいです。
絶対に院生になってもらいましょう!』
「うん!」

改めて気合が入ったところで、ヒトミは手帳を片付け、
碁盤を出して佐為と打とうとしたときだった。
携帯が鳴り、画面に映し出されたのは市川の名前。
いったいどうしたのだろうかと思いながら
通話ボタンを押して、携帯を耳につけた

「もしもし?」
≪ヒトミちゃん、今すぐ碁会所に来て!≫
「どうしたの?」
≪大変なの!アキラくんが!≫
「アキラ?何かあったの?」
≪泣いてるの!≫
「え……?」
≪アキラくんが、こんなに泣いてるところ私始めて見て、
もうどうしたらいいか、他のお客さんも困っていて…≫
「アキラが?」
≪そうなのよ、だから……≫
『ヒトミ?』

市川の言葉を最後まで聞かずに通話を切ったヒトミは
不思議そうな佐為を無視し、
乱暴にいつものカバンに財布と携帯を突っ込み、家を飛び出し
今までで一番のスピードで碁会所へと向かった。







































エレベーターが碁会所のある階で止まって、
扉が開いた瞬間ヒトミは駆け出した。

パン

パパン、パン

「え」
「ちょっと、広瀬さんどこに向けてるんですか」
「すみませんこういうのやったことなくて」
「そこ、何話してるんですか!
行きますよ、ヒトミちゃんプロ試験合格ー」
「「「おめでとう!」」」
「…………」
「ふふふ、驚いた?
ヒトミちゃんが来た瞬間クラッカーを鳴らして、
お祝いしようって提案したらみんな了承してくれたの」
「…………」
「にしても、ずいぶん来るの早かったわね。外にいたの?」
「…………」
「ヒトミちゃん?」
「…………」

いつまでも黙っているので
どうしたのかと名前を呼ぶが、まったく反応がない。
少し俯いているため表情も見えないので、みんなは慌て始めた

「ヒトミちゃん、どうしたの?」
「どっか痛いのかい?」
「イヤだったかい?すまないね」
「ヒトミ?……っえ、っちょ」

お客さんも心配で声をかけてくれる。
そして、アキラも何も話さないヒトミが心配になって
名前を呼んで近づいたときだった。
ヒトミが飛びつくかのようにアキラに抱き付いた

「ちょっと、ヒトミ、え、え?」
「……よかった」
「え?」
「よかったー」
「よかった?」
「何もないんだよね?
泣いたなんてウソだよね?
市川さんが私を呼ぶためについたウソだよね?」
「泣いた?ボクは泣いてないよ」
「よかったー、ホント心配したんだから」
「……ありがとう」

アキラは本当にヒトミが心配してくれていたことがわかり、
それが嬉しくて、戸惑いながらもヒトミの背に手を回した

「あー疲れたー」
「ちょっと、ヒトミ体重かけないでよ」
「全速力で来たんだよ。誰かさんのせいで」
「市川さん、ボク泣いてっ…何やってるんですか!」
「え、っちょ急に離れないでよ、って市川さん!?」

アキラに寄りかかっていたヒトミは
いきなり離れられたのでよろけるが、
それよりも市川がカメラを向けていたことに驚いた。

ニヤニヤした表情のまま、止めるアキラを避け、
まだこちらにカメラを向けている

「市川さん、いつから撮ってたの?」
「ヒトミちゃんがアキラくんに抱き付いたときよ」
「そのビデオ撮ってどうするの?」
「ヒトミちゃんとアキラくんの結婚式に流すの!」
「じゃあ一生使わないね」

カメラに向かって手を振ってから、
行洋、緒方、芦原のもとに向かったヒトミは頭を下げた

「わざわざ、ありがとうございました。
こうして祝われるなんて思っていなっかたので嬉しかったです」
「おお、そうかそうか、
そんならボクたちも来たかいがあったってもんだ。
にしても、キミは直ぐにプロになるだろうなって
思ってたけど、まさかもうなるなんてな」
「芦原さん!頭撫でまわさないで下さいよ!」
「そう言われてやめると思ったか!
ほーら、よしよし、よく頑張ったなー!」
「……」
「ヒトミちゃん」
「あ、はい」

芦原にされるがままだったヒトミだが、
行洋に話しかけられた瞬間、芦原の手から逃れた

「おめでとう」
「ありがとうございます」
「ついにヒトミも来たか。
気を引き締めなければなりませんね」
「そうだな」

この日みんなにプロ試験合格おめでとうの言葉をもらい、
ヒトミはずーっと笑顔だった






2015/03/31


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