short3

□それは僕のエゴだった
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これの続き




梅雨は嫌いだ
もとからボサボサな髪の毛が湿気をすって更にボサボサになるし、大好きな天体観測にも出かけられない
かといって昼間ずっと寝てたから夜のうちに眠ることもできない
部屋のベッドで寝る時間より学校の机に突っ伏して眠る時間の方が多いくらいだ


暇つぶしのつもりで手に取った小説はひどく単調な物語
ありきたりな展開にありきたりなセリフまわし
いつか大どんでん返しがあるんじゃないかと期待してここまで読み進めてみたものの、この様子だとそれも期待出来ない
退屈でならないけれど一度読み出した本を途中で諦めるのは納得がいかず、淡々と読み進めていく


そうこうしているうちに夜はふけていく










翌朝僕はいつものように眠気を堪えて学校までの道をトボトボ歩く
今日の天気も相変わらず雨で、夜までに晴れるかどうかは微妙だ
雨粒が傘に当たってパラパラと音を立てる
僕は雨は嫌いだけど、この音だけは僕の気分を弾ませる



ふと視線を横にやると公園で見覚えのある人物がうずくまっているのが見えた
傘も持たずに雨に打たれ続けているクラスメイトを見捨てられるほど僕は自分を冷たい人間ではないと思う
それに僕の思っている人物ならなおさら放っておけるはずがない

少しいつもよりは家を早く出たおかげで時間はまだまだあることだし、少しくらい寄り道したっていいだろう



「風邪引くよ」



そう言って傘をかざすと楠木さんはひどく驚いた顔をした
どうやら起きている僕の姿が珍しく思えたらしい
失礼極まりないことだけどある種当然の反応なので僕は気にせず話を続ける



「そんなところでどうしたの」



「……え、えっと」



戸惑っている楠木さんの頬が雨ではない理由で湿っているのに気がついた
何と無く楠木さんがここでうずくまっている理由が理解できる
女子の間でのことがいつも学校では寝ている僕にさえ伝わってくるということはかなりの大事になっているのだろう
でもきっと楠木さんはその話題に触れて欲しくないんだろうから、敢えて僕は別の話をする



「楠木さんはありきたりな展開にうんざりすることってない?」



「え?」



「いや昨日の晩読んでた小説がさ割とそんな感じだったんだ」



訳が分からないといった表情でこちらを見やる楠木さん
そんなことはお構いなしとばかりに僕は昨日読んだ小説のあらすじをかたった



「最後まで展開が分かってさ、ちょっと退屈だったんだよ」



「……意外、葉月くんって小説読むんだね」



「まあね、夜更かしの大事なお供だよ」



そうおどけてみせると、楠木さんは少しだけ微笑みを浮かべた
他の誰でもなく僕の言葉がその表情を作り上げたのだと思うと少し優越感を感じる
楠木さんを困らせ泣かせることしか出来ない何処かの女たらしより、数千倍僕の方がマシなのに
それでも彼女はきっとやめないんだろう
見た目から想像するよりもずっと楠木さんは頑固だから


しばらく何も言わずに時が流れる
僕の傘に雨が当たる音だけが二人の間に響いた



「……学校遅れちゃうよ?」


「どうせ行っても寝てるだけだよ」



「そっか………」



楠木さんは僕の登校時間を気にする割りに決して自分から動こうとはしない
そんな彼女を僕が一人置いてノコノコ学校に行けると思っているのか



「優しいね」



違うよ楠木さん
僕のこれは優しさなんてものじゃない
そんな下心もないような綺麗な感情じゃないんだ
今だってほら、君が向けた笑顔に心臓がうるさいくらい高鳴ってる






君をこのまま手に入れてしまいたい


そんなこと出来るわけないのに



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