fluctuat nec mergitur

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 イタリアの街を地図を見ながらプラプラ歩く。
 朝から今日も人が一人死ぬ。
 別段、不思議なことではないが、イタリアを不安に陥れているのが自分達の組織だと思うと少し複雑だ。
 関係ない一般市民を、まぁ一般市民を殺す訳ではないが、今回だって敵対組織のマフィアを殺害するだけだし、けれど麻薬を流す私達のせいで人々が狂って他の人に危害を与えてしまうのは嫌だ。
 買う奴が悪いというならそれまでだが。
「じゃあそれで良いんだよ」
言い聞かせる様に自分自身へ呟く。
 ウジウジ考えて止まない僕が堪らず、そして嫌いだった。
 麻薬を流しているのは僕たちではないし、それを解決するのも僕たちでない。僕たちではなく、護衛だ。
 僕は兎に角、上の奴らの為に、そして仲間・・・暗殺チームの信頼を築く為に今日マフィアを殺す。
 みんなが好き好きで、何でも出来そうだ。
「よーしイタイタ」
壁に背中を張り付けるがイキりすぎて、思いっきり背中を煉瓦に打ち付ける。
「ぐえっ」
出っ張った脊髄をサスサス撫で、仕切り直す。
 壁から相手のアジトを伺う。
 こういう時は、相手が出てくるのを待つのが掟だろう。
「ヴェンディ」
「飛び出て遊んであくびちゃぁあん」
小さい声で呼ぶと奴は禍々しい気配を纏いながら信じ難い台詞を吐いて出てきた。
 おぞましい見た目に相反して性格は明るいのだ。
 だが、しかし。
「なんだよ今のッ!?」
「決まっているだろう、ハクション大魔王じゃ。お主まさか知らぬわけではあるまいな?」
「知ってるっちゃあ知ってるけど、違うよ、ハクション大魔王とアクビガールでは、出まして来ましてアクビちゃん。よばれてとびでて!アクビちゃんではよばれてとびでてパンプリリン、お前ゴッチャになってるし『飛び出て遊んであくびちゃぁあん』って、色々違うじゃん。もう少し練習してから言っ」
斬られそうになった。
 無言でフラムベルジュを降り下ろされて、僕は瞬間的に避ける。
「お、おおお前よぉぉ!!!主人だぞ僕!?」
「だからなんじゃあウジウジ優柔不断のくせしてアニメのことだけは一流じゃの!?」
言い返す言葉がない。
 僕は彼女を無視して再び相手のアジトを見た。
 完璧に目を離していたし、喋ってしまっていたが大丈夫だろうか?
 するとアジトの扉が開いて黒スーツの男が数人出てきた。一人を中心に4、5人が続いている。手元の写真と男を見返し、僕の表情はスッと笑みを消した。不気味な色白さと、陶器の様な眼がポッカリ浮かぶ顔に変わる。
「あれだ」
「・・・どう始末するか?」
ヴェンディの冷たい息が吹いて、辺りの温度を下げた。
「人間には約206本の骨があるらしい。それで大腿骨が一番大きい骨なんだけど、平均の長さは43cm程度なんだって」
「成る程、やりたいことは相分かった」
僕はアジトから目を外し、壁に背をつけた。
 射程距離は十分、確実に相手が死ぬ方法だ、魔法みたいで夢みたいな方法。
 僕のスタンドは僕に出来ないことを叶えてくれる。
「相手の骨を真っ直ぐ上に・・・長さをtrentaで累乗」
骨は内蔵を突き破って身体から突き出る。
 大腿骨は人体で一番強靭かつ大きい骨なのだ。
 低い大人の悲鳴と慌ただしい足音が聞こえて僕はその場を立ち去った。見るまでもないだろう、敵は死んだ。一体彼が何をやって殺されなければならないのかは僕には一生知ることはないけれど。
 ヴェンディをしまって、歩き出す。
 朝からあんな死体を見る・・・いや警察に伝えられることもなく彼は埋葬されるか。
 これでパッショーネの恐怖がまた蔓延されたかな?
「よし電話電話」
みんなの声が聞きたくて。と、報告の意味もかねて僕は、今朝渡された携帯を取り出し、リゾットに電話をかけた。

Ω

 「Hello?Hello?リゾット?僕だぜ、ソリオーラだ」
「任務は終わったか?」
「うん。終わった、終わった」
「そうか、ご苦労」
やはり良い声だ。彼の低い声音に聞き惚れ、満足そうに電話越しに頷く。
「と、ソリオーラ、帰る途中にソルベとジェラートの家に寄ってくれないか?」
低い声音は不安を帯びた。
 ソリオーラは眉をひそめて首を傾げた。
「どうしたの?」
「それが二人共まだアジトに来ないんだ、普通はもう来てるし・・・連絡もない」
鼓動が強く打って、クラクラ目眩がした。
 視界の景色がグワンと歪み、朝の爽やかさなど消し飛ぶ。
 それの脳裏には血と、絶望が過り、携帯を持つ手にじっとり汗が浮かんで、落としそうになった。
「家はどこ?アイツらの家」
輪切りのソルベ。
 仲間は死なせまい。
 そう誓った。
 二人の死から始まった無言の圧力は、彼らの幸せを奪ったのだ。
 本当に血相が変わっていただろう。
  住所を聞いた僕は駆けだしていた、疾風の如く。
  まにあえまにあえ。
「間に合ってくれよぉ!!!」
誰かが死ぬ未来なんて、僕は望まない。僕はそれを変える為に来たんだ、義務だ、ソルジェラは僕が助けるんだ。
  こんな僕でも救えるなら、救いたいと思ったんだから。
  ソリオーラが彼らの家まで来るのに10分もかからなかった。すると黒い車が角を曲がって走り出すのが見えた。
  幹部の車なのだろう。
「いっぐうっ」
スッ転んで顔面をコンンクリートの地面に打ち付けたが、鼻血を拭って再び車を追う。
  暫くすると車が大きな建物に入っていき、何か大きいケースが出てくるのが見えてソリオーラはケースを奪おうとした。
  しかし、スーツを来た一人が銃を構え、発砲。
  躊躇いのない動きに彼女は少したじろいたが直ぐにスタンドを出し、撃たれた銃弾の『威力』を激減させる。
  けれども攻撃は受けなければ『仕返し』出来ない。
  『復讐』には『理由』があるもの。
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