fluctuat nec mergitur

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 ソリオーラは確か何か大切なことを話そうと思っていたのだが、叶わない。
  初めて全員揃って食事に来たのは良いが調子にのったメローネが13歳のソリオーラに酒を飲まして呑まれたのだ。
  そして現在、13歳は歌って踊っての大騒ぎだ。
「はぁぁい僕が一発歌いまぁああすッ」
「よっ男の娘!!」
「えっ、あっ、いや」
こんな感じで始めた隠し芸大会。何を歌うのだろうと思ったメンバーの期待を、ソリオーラは裏切らない。
「ときめきクソミソす・き・さッ」
キレのある動きで下品極まりない歌詞の曲を叫ぶ。
 何時もは絶対にない姿だ。腕をくるくる振り回し脚でステップを踏む。
 更に、その歌は知らないのだが、酒のお陰でテンションが上がった大人たちの数人までもがヤジを飛ばしながら手拍子。
「やっぱ笑顔がス・テ・キ♡」
此処まで歌ってマイクを向けられたメローネが
「やらないか」
とノリノリで答える。まぁ、メローネだから別に驚きもしないのだが、それが
「奏でたいZE☆やらないか」
「やらないか」
プロシュートまでやってしまうから、酒は怖いのだ。
 皆ゲラゲラ笑いながら、ただリゾットは微笑しながら、それにペッシは寝ていて聞いてないのだが、ソリオーラの歌を聞く。サビの所は普段なら下品だと怒られるだけだろうが、今回は何を言っても何をしようと笑って終わる。
 因みに歌は終盤まで歌い切ることはなく
「S.O.SO、あ"ッーーー」
速い動きの中、イナバウアーの様な体勢をとったら床に溢れた酒に滑って頭を打ち、ダウン。
 倒れたソリオーラを静かに持ち上げて膝に寝かせるのはリゾット。
「はっはっはっ!!しょーがねー奴だなぁ」
「しょうもねぇえんだろーがよぉ、やっぱコイツに酒飲ませんじゃあなかった」
笑い飛ばすホルマジオにギアッチョがキレた。グリグリと人差し指で寝ているソリオーラの額を押す。
「ふふぅ」
「うわっ、笑った!!」
気の抜けた不気味な笑い方をしたそれにギョッとして仰け反る。
 やっと何時もの時間が戻ってきたと思えば今度はいきなりジェラートが騒ぎ出した。
「ねぇねぇ皆でさゲームしよーよ!!」
「ゲームゥ?んな子供みてぇな」
「いや、そんなババ抜きとかジジ抜きとかね、そういうやつじゃあないんだな」
「おいジェラート、ジジ抜きっつったときに俺を見たのは気のせいか」
「気のせい気のせい」
柔和な笑みを浮かべながら、ドラえもんの怪しい物真似をしてポケットからカードゲームを取り出す。
「罰ゲームゲームゥゥ」
「これは罰ゲームだけを集めたカードゲームだ。カードを引いてどんどん罰ゲームをこなしてくというものである」
隣に座るソルベが静かに説明した。
「罰ゲームだけなのか?罰ゲームを普通にやるのか、それ?」
「うん。罰ゲームの中でも良いの悪いのがあるじゃん?運試しみたいな」
ホルマジオの素朴な疑問に当たり前だと言わんばかりの顔をして答えると、メローネが会心の笑顔で叫んだ。
「これすっごい面白そう!!やろうよやろうよ!!」
「うわ、ろくでもないこと考えてやがんな」
「罰ゲームだろ?罰ゲームつったらやっぱ、あーゆうのとかこーゆうのとかあって、キャッキャウフフだろ!!ベネーめっちゃベネー!」
そういう彼は服を着ていない。つまり一糸纏わぬ姿。即ち全裸。
 ファーッと興奮しながら騒ぐので、結局流されてその『罰ゲームゲーム』をすることになった。

Ω

 「・・・ふぇえああぁ、う、うっええ!?な、何してんの!?」
「あっ、起きたんなら座ってカードひーて」
目覚めと同時に急にカードの束を提示される。提示したメローネの額には「肉」という文字が黒マジックで書かれている。
 周囲を見渡すと、何故か空気椅子をするプロシュートに部屋の隅っこで吐いているというか泣いているイルーゾォ。机には紫色の液体が入ったグラスが置いてあり、ソファーはモザイクがかかる様な状態ががある。
「んーふー?」
目をぱちくりさせて再びカードを見る。
「引けば良いんだな?」
「そっ、さぁ早く!!」
カードがまがまがしい物に見えた。
 恐る恐るソリオーラは一番上のカードを引く。
「なになにー?」
メローネが覗こうとするとソリオーラは
「み、みみみ見るなッ!!!」
と顔を真っ赤にしてカードを隠した。
 よっぽど嫌な内容が書かれているのだろう。しかしそんな様子を見て
「今更何を恥じる必要があるんだよ」
と、燃え尽きた表情のギアッチョが言った。
「え?何があったの?と、いうか僕なにしてたんだよ!!?」
「あっははー記憶ないんだ。さっきギアッチョ、全力エアギターやって赤っ恥かいてね、すっげー面白かった」
「うるせぇぞ!!!」
空き瓶を投げつけられて頭から流血するメローネ。
 うわっ、と油断している隙にさっとカードを取られた。
「み、見んなやッ!!!!」
「これ最高、はい皆じゃあソリオーラの罰いきまーす」
性悪な笑みを向けて彼は叫んだ。すると、皆が一斉に此方を向いて、ストンと腰をついたプロシュートや泣きながら吐いていたイルーゾォまで二人に注目する。
「罰ゲームの内容は?」
「これこれ。ヤバくない?はっはっはっ、ギアッチョとかリーダーに勝る奴だよ」
「リーダー何したんだよ」
呟いてリゾットを見れば、何やら頭を抱えている。
 近くに落ちていたカードを捲って内容を見てみて、それは、あーあと頭を振る。カードには『大声で、滲み出す混濁の紋章不遜なる狂気の器湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き 眠りを妨げる爬行する鉄の王女絶えず自壊する泥の人形結合せよ反発せよ地に満ち己の無力を知れ破道の九十黒棺、を叫びましょう』を書かれている。
 これじゃあ中2病のレッテルを張られるに違いない。
 しかし、ソリオーラは余裕などなかった。
 何故なら自分にも罰ゲームが(別に罰ゲームを受けるようなことはなにもしていないのだが)待っているのだ。
「さっきのに並んで更に変態度が増すな、これ」
イルーゾォが口を拭いながらニタニタ笑う。
「それじゃあどうぞーー」
変態が全裸で、エアマイクをソリオーラの眼前に翳す。
 ソリオーラは腹を括った。お題は、消火器に欲情する男の物真似。
 まず、消火器に欲情する男がなんなのかよくわからないが、取り敢えずやるしかないだろう。

Ω

「はぁぁあああぁ・・・ぁ・・・あぁー」
深い深い溜め息をついて膝を抱えたソリオーラ。
「あっはははっひぃっやっばっいっ!!!面白すぎだよ、あははふふふっうっははは!!!!!」
「が、頑張った、ぷぷぷっ」
「くっくく、ふっああ笑いがっ、と、とまんっ、はっはははは」
後ろで爆笑する大人たち。リゾットさえも口を抑えて必死に笑いを堪えようとしている。
「死してぇえ・・・」
嘆くそれを傍目に悪夢は続く。
「ふっ、くくくっ、ま、まだまだでも終わんないよー、次ィ」
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