fluctuat nec mergitur

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 時間も進み、大分酔いも覚めてきた頃。
 ソリオーラは、そうだ、と思い出した。
 皆に言わねばならないことがあるんだと、楽しい雰囲気に呑まれて危うく忘れるところだった。本当はこのまま楽しい気分で、はいお開きとか、それが最も良いことなのだが、いつか言わなきゃ混乱する事態を招く。どうせ何れバレるのだろうから。
 告白は早め早めの方が良いはずだ。
「どうしたんだ、いきなり?」
急に無表情で俯きだしたソリオーラを心配するようにリゾットが尋ねた。
「あの、さぁ…なぁ…こんな時に悪いけれど言わなきゃならないんだ…ソルジェラを襲ったのはボスの命令でしょう、考えて見てほしいんだ、ソルジェラが生きている岐路では、あーっと、だから」
岐路なんて言い方は駄目だ。まるで未来を知っているみたいだ。
 心臓が身体に血を流す、ドクドクという音が鬱陶しい。どう言えばいいのか?
  皆がキョトンとして見ている。
「ボスは僕達を生かしておかない、絶対。このままじゃ僕達への冷遇も酷くなるし日々の生活も危うい」
彼らが生きていない未来の方が幸せでいられた時間は長いのだけれど。
  なんて言えない。

Ω

もうはっきり言ってしまおうか。
  自分の身の安全など、どうでも良い。   
お前達は絶対守るけれど。
  どんな遣り方をしても。
「話し変えるけど皆、僕を変に思ったことない?」
首を傾げる。
「変わりすぎだろ。変って言えば…最初に来たとき俺達を見る目が変だったな」
「あ!それに挙動不審」
かなり失礼なことを挙げ始めるホルマジオとメローネ。
  だけど笑えない。
「それがどうしたんだ?」
怖い。怖いが告白せねばならない。
 何時もは大好きな皆の目が今は一番嫌いだ。
視線を落としてまた戻して、身体をい抜くように刺される、皆からの視線を見ないことにする。
「…鏡の世界があるように僕は別の現実世界から来たんだ…っつったら信じる?」
狡い言い方をした私は卑怯者。
  本当に姑息で醜悪。
  もし、信じないと言われればそれまで。
  Good-bye。
答えなんて聞きたくない、耳を塞ぎたい。
  しかし重い覚悟をしたソリオーラとは違い、泣きじゃくっていたイルーゾォが今度は笑い出した。
「それ前皆と話してたんだよ!お前が本当は未来人とかなんじゃってさぁ」
「もしかしてマジか」
「…う、うん…」
予想外のことに拍子抜けしたが本題は自分の正体などではなく、暗チの終わり。
  メンバーが騒ぎ出す前にソレは全てを言ってしまおうと口を開いた。
「彼らは違う岐路だと死んでいた、だけど此処では生きている。僕が生かしたから、そうすることでボスは僕達を『自分の正体を知る者』として殺しにくるはずなの」
「ちょっと待て」
心臓が止まった、一瞬。
 プロシュートの鋭い瞳に吐きそうだ。
「なに!!?」
「岐路ってことは違う未来があるのか。ソルベとジェラートが…死ぬ岐路で俺達はどうしてるんだ?」
内臓が浮いて潰れた気分。
  漫画で読んだときはそれ程でもなかったが、仲間の死を知って生きている何て苦痛でしかなかった。
  何て言うのだろう。こいつらは。
  何て言うのだろう。僕の口は。
本当は言いたい。
  皆は幸せに暮らしているよ、楽しくしてるよ、笑顔でそう言いたい。
  けれど本当に心は素直だった。
  目の前のプロシュートがぼやけて消えてしまう。もう居ないお前達は僕をどんな目で見ているのだろう。
  少なくとも私には誰も見えなかった。
「ひっ、うっぐ…お前達は死ぬ」
涙が零れてきたが見られたくなくて必死に手で目を塞いだ。だが、指の隙間から涙は落ちていき、一人、咽び泣いた。
  やはり悲しいのだが何より悔しい。
  一度でも僕の大好きなお前達が死んで逝ったことが。
  次元の向こうで救えないことが。
漫画を見て、こうなればなぁと眺めていたパソコン画面、ディスプレイを見ながら会えないーこの世界には居ない人達に大粒の涙を流すばかりだった。
  前に屈んで膝に肘をつき俯く。とても見ていられないのだ。
  すると、突然、自分の座るソファの位置がズレている気がした。先程座っていた場所から遠のいたというか。
  不思議になって、顔を上げると、何時の間にか机が近い。まさかと思った。
  しかしアタフタする間にも、身体が縮んでいく。これは間違い無くホルマジオの能力『リトル・フィート』だ。
「や止めろよぉっ!何がしたいんだっ!」
「声も小さくなってやがる」
「知らねぇよ!さっさと解いて!」
怒り心頭になったが、小さくなった身体では怒っても無意味でホルマジオに頭を掴まれ、机上に乗せられてしまった。
「こんくらいが丁度良いな」
「小人だ」
訳が分からず眉を潜めると、突然プロシュートが顔を寄せてきた。
  こんな時なのだが不覚にもその顔立ちに見惚れてしまう。
「俺らの為に泣いてくれてありがとよ」
彼は似合わない台詞を吐いた。
「まさか今更俺達に泣いてく奴がいるとは思わなかったぜ」
「テメェは泣き虫だなぁオイ」
ギアッチョの小指が頬にめり込む。
「痛い痛い痛い」
「助けてくれて有り難う、ソリオーラ」
「お蔭で未来が変わっただろう、今もこうしてジェラートと一緒に居られるのはお前が脚を犠牲にしてくれたからだ」
鉄で固められた脚。
「そっちの世界じゃ死んだけどあんたが居るなら大丈夫だ、あんたを泣かせたら大人の俺達の顔が潰れるぜ」
「…もう潰れろよ」
溜まらずソリオーラはメローネの鼻を殴った。ムードぶち壊れだ。
  泣いた自分が恥ずかしくなる。
「でもやっぱり僕の脚を治してくれたリーダーのお蔭で生きてるんだよ、リーダー無くして暗殺チームは無かった」
鼻頭を赤くしてはにかむソリオーラ。
「大好きだよー」
抱きつこうと助走をつけて机を飛び出すが途中で隙間が広すぎたことに気づく。
  下では硝子の破片が光っていた。
  冷や汗が床に落ちた刹那。リトル・フィートは解けていた。
  等身大サイズに戻った彼女は両手を広げてそのままリゾットの首に顔を埋めた。謎の飾りが邪魔だが気にしない。
「うわーリゾット贔屓だ、泣くぞー」
「五月蝿い全裸、あーリーダーって落ち着く。凄い眠いなぁ…疲れた」
リゾットに抱きついたまま寝てしまったソリオーラは実に子供で、憎たらしげにプロシュートが呟く。
「寝てりゃあ可愛いのによぉ」
「ほんとほんと、あとホルマジオ、またアイツのこと小さくしてくんねぇ?」
共感するイルーゾォがドや顔を見せた。
「じゃあソリオーラも寝たし…ペッシも爆睡したからお開きにするか」
立ち上がるリゾットはソレを落とさないように抱っこして店を後にした。
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