黄泉の国

□今日、全てが終わりました。
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深夜、ビルの屋上。
星空の下、俺と彼女。
小さく響く笑い声。
風に溶けていく。


「ほんと、あの時は良かったよね...」

「だね...」

そんな言葉を最後に止まる会話。

静まり返ったこの場所を生温い風が通り抜けていった。

柵の向こう側にいる彼女の背中をただぼんやりと見つめる。


「でも...」

沈黙を破ったのは彼女。

「もう、終わりだね」

「...うん...」

また生温い風が通り抜けていった。


「だから...私達も、もう終わりにしよう」

「...うん...」

彼女の言葉に頷く。

だってあの時とは何もかも違うんだから。


目の前の人を愛していたあの頃。
彼女の為なら全てを犠牲にしても良かった。
俺なりに全力で彼女を愛していたあの頃。

今思えば幸せだった。
あんなにも誰かを愛せたなんて...
自分の事なのに、今の俺には信じられない。


「じゃあ、そろそろいくね」

「......うん...」

頷いて、彼女の背中を見つめた。

ゆっくり前に倒れていく彼女。


俺はただただその背中を見つめていた。

見えなくなるまで。

暗闇の中に飲み込まれていく彼女を見つめ続けた。


彼女の背中はすぐに見えなくなって、広がる闇に瞬きを一つ。


遠くの方で鈍い音が聞こえた気がした。











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